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なら、あの男には。
神楽には。
教えたのか。
自分から、これが『碧』であると。
教えてやったのか、手ずから。
懸命で盲目的な紫倉など、ちらとも見ずに。
涼しい顔で無礼な文言ばかりを吐く、あの憎らしいほどに儚く美しい男には。
教えてやったと言うのか。
自分ばかりが知っていると思っていたすべてのことを。
すべての『碧』という人間を。
碧の『秘密』も。
直接、自ら、明かしたのか。
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「先生っ、鎮静剤を!」
「清凛さん、聞こえますかっ?聞こえたら頷いて下さいっ?清凛さんっ?」
赦せない。
この堪らない屈辱を、どうしてくれる。
愚かではないか。
ひたむきに後を付いて回った自分が、あまりに愚かではないか。
レイピアで切り捨てて来た者達と、少しも変わらない。
そんな扱いを、自分にしたことを、後悔するべきだ。
泣いて赦しを乞うべきだ。
彼は、頭を下げて謝罪を述べねばならぬ。
絶対なる忠誠を誓わせなければ、完膚なきまでに叩き潰さねば。
どうすればいい。
どうすればいい。
彼のすべてを知っている自分は、手にするカードで何をする?
彼の『秘密』を、どうしてやろう。
脈絡も冷静も理屈も矜持も現実も。
四肢から流れた血に乗って、崩れた地下に埋もれた。
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