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何故?
どうして?
碧は選ばなかったのだ。
紫倉を。
共にあり続ける『当人』の称号を、自分に与えてはくれなかったのだ。
何故?
どうして?
自分ほど彼を理解している人間など、この世界にはいないのに。
世界でたった一人。
碧にとっての世界でたった一人は、自分のはずなのに。
あの一瞬を理解しただけの神楽を、碧は『当人』に選んだのだ。
今までは、何だったのか。
すべてを理解して行くあの日々は、何だったのか。
隣にはいられなかった。
彼の隣には、自分は立つことが出来ないと、知っていた。
誰も立つことが出来ないとも、知っていた。
だから、最も近く。
その後ろを追って、守って、共にどんな場所をも駆けて来たでしょう?
爆撃が唸る戦場を、冷たく蠢く総本部も、小さな火花を上げる市街。
東の大地、彼の執務室、敵地の中心。
分かっていたのは、自分だけだった。
分かって行こうとしたのは、自分だけだった。
すべてを知るために、理解するために、必死について行ったのに。
秘密だって、共有しようとしたのに。
そこで気付く。
すべては自分から、注いだ努力であったと。
彼から教えられたことは、何一つなかったことを。
どんな小さなことであろうとも、碧に纏わる何もかもが、大切で。
大切なものは、すべて自分で掻き集めて拾い上げて。
宝箱にしまって暖めていたけれど。
碧が己に与えてくれたものは、この掌を見つめても。
くまなく探しても。
どこにも。
砂粒だって、見つからなかった。
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