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同時に、この情報屋の観察眼を内心だけで感心してもいた。
玲明が神楽と出会ったのは、昨夜が初めてのはず。
いくら中将の負傷で動揺しているとはいえ、彼の性格をここまで見抜くことが出来るとは驚くばかりだ。
ダブリアよりも先に、イルビナに引き込みたかったなぁ、と。
浮かんだ為政者の考えは、本題を促されて収束した。
「で、俺を連れ出したのは、別にこんな話をするためじゃないですよね?」
「もちろん」
古びたソファを勧め、自分は対面の粗末な椅子に腰を下ろす。
負傷者が密かに借りているこの家は、長いこと使われていなかったようで、こうして調度があるだけよかった。
「その前に、確認したいんだけれど」
「なんですか?」
「君の肩書きは、ダブリア軍皇帝直轄情報室室長ってことで、間違いないんだよね」
長い正式名称で問う。
先に玲明自身から聞いてはいたが、確認しておきたかった。
すでに告げてある事柄に対し、男は怪訝な顔をすることなく、一変させた真面目な面で首肯する。
「なら、皇帝ともそれなりに面識が?」
「一緒に飯食う仲ですけど」
さらりと言われた内容に、瞬間的に脳の稼動が止まった。
「……ダブリア皇帝は、随分気さくな方なんだね」
「初対面の衣織を、家族にするくらいには」
「………まぁ、いいや。うん、なら君に一つ、頼みたいことがある」
理解の範疇を超えた北国の統治者の人柄については、考えないことにする。
重要なのは、即位数年で早くも賢帝の呼び声高い翔嘩皇帝が、噂通りの聡明さを有しているか否か。
真っ直ぐな眼光で、イルビナの大将はそれを口にした。
「翔嘩皇帝に、繋ぎを取ってもらいたい。これからのことで、ダブリアの協力を頼みたいんだ」
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