「雪の……故郷」

自分の立つ丘陵から、その村は一望出来た。

質素な家屋が立ち並び、細々とした市が中央の道に展開して、まばらながらも人影があった。

知人と楽しそうに会話をする者、井戸で水を汲む者、馬小屋から人が出てくる。

少しも華やかさはないのに、確かに人が在る生活感に彩られた穏やかな日常。

だが、素朴な風景が衣織の瞳を見張らせたのではない。

遠目からでも分かる。

陽を受けて燦然と光る白銀の髪。

今、自分の傍らに立つ男と同じ色の髪を、視界に映る人々は持っていたのだ。

「髪……」
「瞳も皆俺と同じ色だ。ここにはお前のような黒髪や黒目は一人もいない」
「一人もっ!?」
「この地に住まうすべての人間は、生まれながらにして白銀の髪と金色の眼を持っている」

まさか。

この類まれなる色彩を、誰もが有しているだなんて。

有り得ない。

初めて目にした雪の色は、これまで共に旅したどの国でも、二人として同じ人間を見ることはなかった。

行き交う人間は、彼の髪に振り返り、彼の瞳に囚われた。

荘厳な美貌も手伝って、いつだって注目の的で。

なのに、今自分の目には、何が映っている?

視線を村に残したまま呆然としていた衣織は、頭上からバフリと被された布に、ぎょっとした。

「おいっ!何すんだよ」
「被っていろ。お前の色はここでは目立つ。余計な注目は必要ないからな」
「けどっ……」
「顔もなるべく隠せ。お前を他の人間に見られたくない、行くぞ」

随分と一方的に言われたせいで反発心はあったけれど、村に向かって真っ直ぐに歩き出されてしまい、仕方なく寄越された雪のローブをしっかりと頭から被って追いかけた。

心地よい気候の中を村に向かって進んでいく。

村の入り口で果物籠を抱えた女が、こちらに気付いたのは間もなくのことだった。

「あ……雪様っ!」
「え、雪様だって!?おい、雪様がお戻りになられたぞっ!!」

静かな村のどこにそれだけの人がいたのか、女の声を皮切りに、一挙に中央の通りに人垣で誂えた花道が出来上がった。

様々な年代の人間が道の左右に集い、雪が前を通るたびに、頭を深く下げる。

中には地に膝をついて涙を零すような者までいた。

そのすべての者が、人垣の真ん中を無表情で進んでいく男と、同じ髪と瞳の色をしているのを、少年はローブの下からこっそりと窺っていた。

おかげで、雪に畏敬の念を送る村人たちが、彼の後を追って付いて行く顔を隠した自分を、怪訝な思いで注視しているのにも気付いてしまった。

救いなのは、向けられる目線が、衣織をただ不思議に思っているだけのもので、どこにも負の感情が含まれていないことだ。




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