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少々面倒だが、別の港がある街まで行った方がいいかもしれない。
本部から知らせが届いたとしても、主戦力の固まっているレッセンブルグよりも、安全な気がした。
今後の予定を組み立てていた衣織に待ったをかけたのは、隣の席の男だった。
「このまま港に」
「え?船は夜が明けなきゃ……」
「個人船を借りればいい」
正確には強奪だろう、と言いたいが、それよりも気になることがあるので一先ず見逃す。
「小さい船じゃダブリアまでは持たないだろ。時間もかかる」
あまり現実的とは言えない提案は、雪らしくもない。
多少無茶なことも言う彼だが、今回の発言は検討違いだ。
しかし、雪は前を向いたまま続けた。
「心当たりがある。精霊を使えばそう時間もかからない」
「心…辺り?」
小首を傾げて問い返す。
彼は一つ頷くと。
「追っ手は絶対に入れない」
「なんだよ、それ」
やけに自信のある言い方が、引っかかった。
眉を寄せてチラリと視線を流せば、金色の瞳とぶつかった。
強い光を放つ眼は、衣織の本質を見抜こうかと言うほどに真剣で、何が術師の輝きをそうさせるのかが分からない。
ひっそりと呼吸を続ける少年に、男は告げた。
「恐らく、お前なら入れる。お前なら、迎えられる―――『天園(テンエン)』に」
to be continued...
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