君ならば。




三人目の兵士を昏倒させたのと、足を付ける床がグラリと揺れたのは同時であった。

ドンッと突き上げるような衝撃に、バランスを崩す。

倒れこむ前に腕を掴んで引き戻してくれた術師に礼を述べる余裕もなく、衣織はこの激しい揺れは何かと、意味もなく周囲を見回した。

こちらを窺っていた数人の兵士たちも事態が読めず困惑している。

その絶好の隙に雪は簡単な術で相手を沈め、少年の手を引いて通路を走り出した。

「これって地震っ!?」

最初の勢いから僅かに収まった振動の中、先を走る男に問いかける。

間違って転ばぬようにと、雪の手は細心の注意を払って、衣織を導いているのが分かった。

「いや、エレメントが動いている。恐らく、火澄が術札を発動させたんだろう」
「術札を?ってことは、アイツらもフロア0を脱出したってことなのかな」

コクンと同意を示され、内心でほっとした。

どうしたって気になっていたのだが、よかった。

ここまでの道すがら、出会った敵のすべては衣織たちが片付けたから、彼らもすぐに脱出出来るだろう。

地下駐車場に出た瞬間、ビー、ビー、と警報が響き出した。

緑のランプが赤に色を変え、異常を知らせるために明滅を繰り返す。

ノイズがふんだんに混ざった放送が、そこかしこに取り付けられたスピーカーから流れて来る。

『西棟フロア0にて緊急事態発生っ!火災、及び倒壊が予想されるっ……繰り返す、西棟フロア0にて緊急事態……』

玲明と乗りつけた車両の運転席に乗り込み、助手席の雪を見る。

「アタリだな」
「本部は地震でダメージを受けているはずだ、さっさと出た方がいい。この分だと、第二派も来るぞ」
「イルビナ本部と心中だけは、絶対に嫌だ」

きっぱりと言い切るや、衣織はギアを入れ替えて、ぐっとアクセルを踏んだ。

地上へ通じるゲートが開いたままであるのをいいことに、危険な速度で駐車場を飛び出す。

現れた暴走車両に兵士たちは慌てふためくが、ただでさえ本部を襲った原因不明の衝撃に戸惑っているのだから、冷静に対処出来ようはずもなく。

おろおろと意味もなく動き回った挙句、突っ込んで来たボンネットから飛びのいて、道を譲ってくれた。

バーの降りている正面ゲートを吹き飛ばし、市街に繰り出しても、誰も追って来ない。

だが、彼らが正気に返って任務を遂行し始めるのは時間の問題だ。

敵の混乱が沈静化する前に、レッセンブルグを抜け出すか、どこかに身を隠す必要がある。

「これからどうする?ダブリアまで行くにしても、今からだと明日の朝までどっかに隠れなきゃいけないし」

当初の予定ではここまで派手に雪を取り返すつもりもなかったので、一晩くらい街に潜み、夜明けと共にまた変装でもして脱出しようと考えていたのだが、如何せん事は大きくなり過ぎた。

敵は雪が逃げ出したことを当然知っているし、もたもたしていれば人海戦術で探し出されてしまう。




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