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今、出て行ってはならない。
出て行けばどうなるか分からない。
少年の目線の先は、赤を纏った男たちで埋め尽くされていた。
昨日の山賊よりは少なそうだが、それなりに人数は揃っている。
殺伐とした空気と、翻る赤い服の裾。
それに衣織は心当たりがあった。
込み上げるのは「まさか」。
赤服の全員が、左の二の腕辺りに白い布を縛っていたことで、「やはり」に変わる。
「なんなんだっ?」
ついに我慢できなくなったのか、僅かに苛立ちを含んだ声と共に、雪は押しやる少年の手を払いのけて起き上がった。
状況確認に熱中して、すっかり忘れていた。
今度はきちんと彼に向き直ると、衣織は大きなため息を吐いた。
「俺の勘ってマジで当たる……。残念だけど今日も無理、出直そう」
「なぜだ?」
言うなり、雪は衣織よりも高い位置で木の陰から顔を出す。
「わっ、バカっ!」
慌てて彼のマントに手を伸ばすも、僅かに遅かった。
「誰だっ!?」
カチャリッという金属音と共に、野太い声が至近距離で聞こえた。
「そこで何をしているっ、出て来い!」
見つかった。
舌打ちをしてやりたい気分だ。
視線だけで背後を確認すれば、銃を構えた男二人組みがこちらを威嚇している。
その火器を見て、衣織の予感はますます確信に変わった。
「アンタ、運悪いんじゃねぇの?」
「お前が悪いんだろう」
術師の不機嫌な声は、事態をきちんと理解しているようだ。
もっと早く理解してくれていれば、こんなことにはならなかったのにと、後悔したところで後の祭り。
衣織は一つ息を吐き出してから、ゆっくりと男たちを振り返った。
「ひっ!?う、撃たないでっ、ごめんなさい!!」
顔を真っ青にさせて、傍目にも明らかなほど肩を震わせる。
ついでに涙目にでもなれば、赤い服の二人組の目には、無害な一般市民に映るはずだ。
傍らの雪が顔を俯けていたのもよかった。
警戒の必要はないと判断したらしく、男たちは互いに目を見合わせ軽く頷き合う。
銃口はそのままにして、口を開く。
「ここは現在、立ち入り禁止だ。即刻立ち去れ」
「ごめんなさいっ。ま、迷子になっちゃって……。すいませんでしたっ!」
言うや否や、衣織は雪の首根っこを掴んで逃げ出した。
追ってくる気配がないことに安心しつつも、とにかくあの集団の目に留まらないところまで走らなければ。
衣織は足場の悪さなど物ともせず、来た道を引き返し始めた。
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