蓮璃の話が終わってから、雪の態度は味気ない。

いや、つっかかって来ない。

一応、気を使ってくれているのだろうか。

今更ながらに、よく知りもしない人間に聞かせる話しではなかったかと思い至る。

申し訳ないことをしてしまったかと考えるも、事実はかけ離れたものだ。

ただ一心に雪を踏み分けて行く術師の脳裏には、儚く微笑んだ衣織の表情がエンドレスで再生をされていて、当人の顔を直視はおろか、ろくに会話することさえままならなかったのである。

だが、衣織に彼の胸の内を知る術はなく、過ぎてしまったことは仕方ないかと、早々に反省を打ちきった。

見覚えのある森の中を、己よりも十センチは長身の後について進んで行けば、やがて木々の途切れた場所が視界の奥に映った。

そこだけぽっかりと開けている様は、確かに昨日、少年が迷い込んだ挙句に行きついた場所だ。

雪の目的地はここだったかと納得しかけて、不意に足を止めた。

頭の中央を突きぬけて行った、嫌な予感。

危機回避本能か、シックスセンスと言うやつか。

「なぁ……」
「なんだ?」

小さく呼びかければ、今度はすぐに返事が返ってくる。

動きを止めたこちらに合わせ、雪も立ち止まる。

「嫌な予感がすんだけど」
「嫌な予感?」

自慢じゃないが、自分の勘はよくあたる。

最近は特に。

「気のせいだろう」

だが、雪は気にせずに進行を再開させようとした。

「ちょっ、マジなんだって!」
「っ!?」

咄嗟に伸ばした手が掴んだのは男のマントで、後方への力が強すぎたのか、彼は首元を押さえながら仰け反った。

ギッと凄まじい眼光に取り合わず、衣織は更にマントを引っ張って、傍の木の陰に身を潜ませた。

理由は明白。

目の端に、見えてしまったのだ。

極限まで気配を殺し、雪を押さえこんだまま、そぅっと数メートル先を窺う。

森の開けた場所、すなわちあの黒水晶があった場所だ。

自分が粉砕してしまったせいで、水晶は無かったけれど、代わりに先ほど衣織が視界に捉えたものがあった。

「なんだ?」
「シッ」

小さな声で隣の男を黙らせる。

もぞもぞと動き出す雪を、更に木の影に押し込んだ。




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