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蓮璃の元に、帰って来なければならない。
戻って来なければならない。
『愛して』いるならば。
それが契約。
二人の交わした、契約なのだ。
愛していた。
姉のように。
母のように。
彼女が璃季の身代わりに、恋人として自分を買ったのだとしても、いつしか家族として愛していた。
恋慕の情ではなかったけれど、愛していたのだ。
ただ、蓮璃が求めているのは、愛ではなかっただけのはなし。
「好きだったんだ。俺は。俺は蓮璃が好きだったんだよ」
純粋に、好きだったのに。
愛を訴え、愛で縛る彼女は、衣織のことなど愛してくれてはいなかったと、思い知らされた。
衣織を見てはいなかったと、断言された。
最初から、身代わりとしての買われたはずなのに、愛してしまった自分が悪い。
頭では分かっていても、二度と「璃季」を失いたくないのだと叫ぶ蓮璃に、何も言うことが出来なかった。
「愛とかなんとか言うくせに、自分は俺のことなんか全然愛してない。俺を戻らせる言い訳に『愛』とか使う。……笑えねーよ」
まっさらな気持ちを踏みにじられて、視界がぐらりと揺れたけれど。
狂った彼女は笑うだけ。
ただ綺麗に笑うだけ。
いつの間にか横に並んでいた雪が、静かに口を開いた。
「だが、お前は何度でも騙されてやった」
「そりゃあな」
「なぜだ」
流した目線の先で、真摯な輝きと遭遇する。
肩まで伸びた銀の髪は、吹雪に踊り幻想的な煌めきを放つ。
彼の姿に暫し見蕩れて、それから衣織は笑った。
切なげに。
儚げに。
「だって、俺、アイツのこと愛しちゃってんだもん」
諦めを含んだ悲しい微笑は、嵐のような世界で、奇跡のように美しかった。
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