別に、平気なわけではなかった。

イルビナを離れた自分を罵りたくもなったし、雪の安否を思えば不安で仕方なかった。

それでも、翔嘩や玲明がなぜ出立直前まで情報を教えてくれなかったのかと考えれば、思考は急速に冷静さを見せた。

優秀過ぎる情報屋の腕を持ってすれば、イルビナの事態などすぐに知れたはず。

わざわざ言わないでおいたのは、別に言いづらかったからではない。

衣織が焦らないように、すべての用意が整うまでは、冷静でいられるように。

すべて、こちらを配慮してのことと悟る。

後々になれば世界的な問題だが、今はまだ衣織だけの重大事件だ。

手を貸してくれただけで十分なのに、こうして自分を心配してくれる彼らを前にして、感情に身を任せることなどどうして出来る。

それに。

自分がやるべきことをやると、イルビナの夜に決めたのだ。

人を食ったような緑色の輝きに思い出させられた、立ち向かう意思。

自分がすべきことは、絶望に浸ることではない。

言い聞かせて。

何度も、言い聞かせて。

「大丈夫、俺は出来ることをするよ」

強い光を携えた瞳に、玲明は暫時目を丸くしたあと、嬉しそうに声を上げて笑った。




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