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声に滲んだ怒りを感じ取ったのか、相手は不思議そうな表情を作りつつ、だがどこか遊ぶように言う。
「子供だろう?」
「年で見ればね」
「なら何で図って子供ではないと主張するつもりだ」
与えられた問いかけは、衣織の頬を吊り上げた。
生きた時間に不似合いな、酷薄さを漂わせて。
「子供の傭兵なんて、おかしいだろ?」
首を廻らせれば、視界に映るのは大人ばかり。
完成された体に装備を纏って戦いに赴く。
自分が異質であると、悟るのは容易い。
細く頼りない身体と一振りの短刀。
場違いも甚だしい姿。
それでいて宿しているのは、この身に見合わぬ戦力。
明らかに何かがおかしかった。
「少年兵など珍しくもあるまい。反乱軍には大勢いるぞ」
「前線にいながら、生き残るガキが?」
「……」
口にした言葉には、自分自身を嘲る響きともう一つ。
静かに降り始めた雪に紛れて、乾いた大地に積もりだす。
一陣の風が吹く。
桜色の髪が、微かに揺れた。
「恐ろしいのか」
呼吸が止まったのは、一拍の後。
正常に機能していた組織が動きを止め、今しがた鼓膜を振動させた何かにすべての意識が向かう。
黒曜石は見開かれたまま固まって。
鼓動がドクリと脈を打つ。
「恐ろしいんだな」
そのフレーズが、繰り返される。
確認をするよりも、ずっと力強い音で。
「手にしたすべても、倒れ行く骸も、紅を浴びる己さえ」
この国の色をした二つの輝きが、少年の内側を暴く。
「なに、言って……」
無理に出した声は掠れて引き攣れていた。
己の状態に動揺が進行する。
頼りない肩が小刻みに震えていると分かっているだろうに、対面の双眸は少年の闇色を縫い留めて離さない。
逃げることを、許してはくれない。
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