煩い。

黙れ。

耳を塞いでしまいたかった。

なのに。

目の前の男は逃げることを許してはくれない。

聞きたくないのに。

理解などしたくないのに。

分かっている。

分かっている。

分かっているんだ。

「お前は優し過ぎる」

憐れみさえ含まない涼やかな低音が、心臓を射抜いた。

敢て閉ざしていた衣織の視界に、白日を注ぐが如く、すべてを正確に伝えてしまったなんて。

時間が、止まる。

呼吸も、止まりそうだった。

衣織は蓮璃を『愛して』はいなかった。

けれど、確かに衣織は蓮璃を『愛して』いたのだ。

姉のように。

母のように。

代わりのいない、大切な家族。

守り労わる絶対的な身内。

少しも愛さなければよかったと、何度思ったか。

愛さなければ、仕事だと割り切ることも出来たのに。

「ははっ……アンタ、マジで嫌な奴」
「それは、お前の主観で決まることだろう」

グローブをはめた手で目元を覆った少年には、白い男の嫌味な返しが、不思議に優しく聞こえた。




- 30 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -