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「察しがいい人間は好きだな。ここのロックは全部コンピューターで管理されてるから、ちょいちょいっとハッキングすれば誰が牢獄に入ったか分かっちゃうんだなぁ」
セキュリティを考慮した上で最新技術を導入したのだろうが、玲明からすれば情報を開示してくれているようなもの。
親切極まりない。
皮肉びた微笑を刻む男に向かって、衣織の呟きが落される。
「一体、だれが……」
「優秀な、ユウシューな、神楽=翔庵少将だ」
唇の端を歪めた玲明に、真っ直ぐに伸びた背筋が凍りついた。
どこか嘲るようでいて、堪らない欲求を纏った台詞。
彼の恐ろしいほどの探究心が、琥珀を煌々と輝かせ、出会った当初に覚えた少年の恐怖を蘇らせた。
興味を抱いた相手を、とことん追及し一つ残らず暴いてしまう情報屋の暴力。
玲明の本能と言ってもいいのだろう。
細部まで露にし、標的の内側を解剖して行く。
隠すことも鎧うことも出来ず、ただ有りの侭の現実を引き出す男。
己が満足するまで探りに探り、データ化し尽くせばごくりと呑み干す。
あの時は、対象が自分だったけれど。
今は。
新しい玩具を見つけた猫を思わせる男は、純粋過ぎる好奇心で静かに胸を高鳴らせているのだ。
「アンタって……精神的マッドサイエンティスト」
「は?」
「マゾかと思ったら、違うんだな」
「あの、紅さん?」
意味が分からないのか戸惑う玲明をよそに、衣織は一人納得。
憎いはずの神楽に対し、哀れみすら抱いてしまった。
玲明はしばらく怪訝そうな顔をしていたものの、本題に戻るために先を続けた。
「……でだ。その翔庵少将が出入りし始めた時期が、紅の言ってた術師と別れた時期と一致してるんだ。よって、ここに雪=華真が捕らえられていると推察される」
「目指すは最下層ってことか」
「そ。警備は常時二人だが、お前なら問題ない。ただ、ロックの解除が問題だ」
「なんで?鍵を奪えばよくないか?」
見回りの人間も牢獄の鍵を持っているのならば、倒したあとに拝借すればいいだろう。
首を傾げる少年に、相手は頭を振った。
「牢獄のロックは少将以上の階級章が鍵になってるんだが、警備兵は別なんだよ。警備の士官なんて下っ端だからな。管理室に専用のカードキーがあって、それを一々取りに行ってるんだ」
「管理室って、確かフロア1の……」
見取り図に目を走らせ、地下一階にあるその部屋を視界に映す。
モニタールームと隣接する形で存在する管理室は、フロアの中央に位置し、到達するには多くの敵と遭遇せずにはいられない。
衣織はこれ見よがしに顔を顰めた。
「流石に無理あるだろ」
「いくら紅が戦の神様でも、厳しいよなぁ。何せ侵入がバレちゃいけないんだからな」
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