逸る心。




あれから数日が経った。

とてつもなく長い時間のようにも思えたし、瞬きの間でもあったように感じられる数日間。

雪の身を思えば心は急いたが、奪還のための準備に忙しく動き回っていた。

玲明は翔嘩が斡旋しただけあって、有能な人材だった。

「これ……見取り図?」

差し出された数枚の紙を自室のテーブルに広げた少年は、見覚えがある紙面と若干異なるそれに首を傾げた。

「イルビナ軍総本部のな。お前が持ってたのは、少し古い上に雑過ぎだ」
「いや、けどコレどこで……」

衣織が入手した見取り図よりも、事細かに描かれている代物。

まさかこれほど詳細なものが手に入るだなんて、思ってもいなかった。

何せ場所が場所。

本拠地の造りが漏洩しては、敵に制圧される危険性が飛躍的に上昇する。

勿論、警備の手などもあるし、戦力などを考えれば一概には言えないが、核となる本陣の構造が相手方に知られてしまうのは、非常に危険だ。

驚きを前面に押し出した少年に、玲明は楽しそうに笑ってみせた。

「情報屋を舐めちゃ駄目でしょ。入手ルートは軍事機密ってことで」

机上の一枚を示す彼の指先を追った衣織は、ますます端整な貌を驚愕に染めた。

イルビナで自分が仕入れた見取り図との、最たる違い。

「フロア0……」
「その通り!」

軍の最下層までもが、男の用意したものには記されていたのだ。

そこだけぽっかりと空いた衣織のものとは違い、こちらははっきりと埋まっている。

想像していたよりも遥かに広大な面積を持つ地下施設を、情報屋はゆっくりと説明して行く。

「このフロアには、主に研究所と牢獄がある。上階に通じる昇降機は二か所。ラボでは現在、術札『花』の開発が進められてるみたいだな」

彼の言葉に、自然頬が強張った。

先日覚えた妙な不安は、今でも衣織の胸の奥に影を残して、何度となく白銀の術師を呼び起こさせる。

すぐにでも救出に向かいたいのに、ままならぬ現状が歯がゆい。

険しさを見せる少年の表情を前に、玲明は話しを続けた。

「牢獄っつーのは、蒼牙のジジイが元帥に着任してから作られたもので、幹部を一新する以前に使用していた。今はほとんど使われることもないらしいが、紅ご執心の術師は、ここに監禁されていると見て間違いないだろうな」
「……どういうことだ?」

茶化すような口調を不快に思いながらも、衣織は疑問を口にする。

研究所と細い連絡通路一本で結ばれている牢獄は、確かに華真族を実験に用いようとしている西国には都合がいいだろうが、男の確信を持った響きが気になった。

なぜ、断言出来るのか。

訝しげに眉を顰めるこちらの疑問符に、答えが与えられる。

「この牢獄エリアには、特定階級以上の人間と、定期的な見回りの警備兵以外は入ることが出来ないようになってる。誰も収容していないときは、警備兵の規則的な入室しかないんだ」
「つまり、それ以外の人間が最近になって入ったってことか?」

玲明は心底嬉しそうに頷いた。




- 336 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -