夢。
SIDE:火澄
硝子のあちら側から、研究員たちのどよめきが手に取るように察せられた。
大方、存在を確認されていなかった華真族を目の当たりにして、興奮しているのだろう。
普段は対象を実験材料としか見ないはずの彼らも、相手が雪ともなれば、容姿の素晴らしさに目が奪われてしまうようだ。
火澄は下方の光景を面白そうに眺めていた。
最初の華真族を用いた実験。
平生は共に監督する立場にいる優秀な副官は、現場で指揮を執らせることにしたので、ここには居ない。
白銀の登場に浮き足立つ研究室の中で、ただ一人冷静に作業を進めているのが、ここからでも分かった。
「さて、この実験……どうなるかな」
荒れたエレメントを繊細過ぎる神経で受け止めてしまう雪だが、今なお彼には自分の加護がついているので、心配はない。
問題は、果たして華真族の命に花精霊が従うのか。
正常な状態ならば可能でも、研究室の中心で荒々しく粒子を踊らせ続ける花突のエレメントは、術師曰く「異常」なのだ。
緋色の眼を細めると、男はゆっくりと腕を組む。
まずは華真族が、今の花精霊にどれほど有効なのかを調べるだけ。
義父を思えば逸る心もあるが、仕方あるまい。
間に合えばいのだ。
蒼牙統治において、紅の旗が四大陸すべてに掲げられさえすれば。
静かに目蓋を下ろせば、目に浮かぶ夢の光景。
もうすぐ。
もうすぐで、すべてが終わる。
雪がいれば。
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