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「身長は俺よりちょっと高くて、割と華奢。明らかに頭脳派って感じ。眼鏡かけてて、髪と瞳は青がかった黒だな」
そこに厭味な笑顔を加算させれば、完璧だ。
言い終えたのと、玲明の指が最後のキーを押したのは同時だった。
「紅がお探しの人物は、こいつか?」
「翔……」
モニターに映し出された人物は、正しく自分が砂漠で出会った男だった。
イルビナのデータベースではないらしく、写真は誰かが隠し撮ったもののようで、何処かの施設から出て来るところだ。
遠目から撮影されたものだが、これが誰かは明白。
玲明がもう一度パソコンを操作すると、解像度を上げた顔のアップが現れ、繊細な面がよりはっきりとする。
「神楽=翔庵。イルビナの半端貴族の三男ながら、蒼牙体制によって少将の位に就いた実力派だ」
「翔庵……。こいつが……」
レッセンブルグで出合った火澄に、翔庵家について少し聞かされていたが、まさか翔がその切れ者と名高い三男だったとは。
――感情的になりやすい清凛大佐よりも、ずっと冷酷なんじゃないかな。計算高いやり手の文官だよ
ネイドで目にした翔の行いは、火澄が話した通り。
ぴたりと当てはまる。
次第に記憶にあるビジュアルと名前が結びつく。
「神楽……翔庵……『翔』」
「こいつがどうかしたか?」
「ちょっとな」
「……」
曖昧に笑う少年に、玲明は何かを思うところがあったのか。
しばし逡巡した様子を見せたあと、厳しい顔を作った。
「俺が軍入りするとき、条件としてお前の情報をダブリア軍で管理することになった」
「え……」
「皇帝の性格考えてみろよ。俺よりよっぽどお前を愛してんだろ?データに『紅の戦神』が含まれていることに気付いて、個人で管理させるわけにはいかないと思ったんだろう。セキュリティをより強固にするつもりだったんだ」
彼のデータには、紅の戦神が誰であるか、今現在どこにいるのか、そのすべてが記されている。
衣織の穏やかな毎日を護るため、翔嘩はその条件を提示した。
「俺も皇帝の条件を呑んで、紅のデータを軍に移動させた。俺のここでの役職は情報室の室長、当然部下もいてチームで新しくセキュリティを作り、お前のも含めて情報の保護に当たった」
玲明の肩書きは階級で言えば大佐だが、情報室は皇帝直属の組織。
他の士官たちからは分離しており、軍部内でも独自の権力を有している。
情報と言う重大な素材を扱うこともあり、一歩間違えれば暴走しかねないものの、手綱を握っているのは皇帝のため、まず問題はない。
「ただ、つい最近になって部下が一部の情報を持ち出したんだ」
「どう言うことだ?」
「ミスってブロックに穴を作ったらしい。俺にバレないうちに処理しようと、自分の機材で作業していた。が、そのとき運悪くハッキングされたんだ。ただでさえ綻びのあったブロックだろ?生きてるセキュリティを発動させたらしいが、相手が悪かった。情報は綺麗にハッカーの手に流れましたとさ」
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