何処かで見たことがあるような、けれど決して記憶にない相手の姿に、少年は怪訝そうな顔を作った。

琥珀色の瞳など、自分は知らない。

「アンタ、誰?」
「玲明。ダブリアの元傭兵で情報屋だったところを私がスカウトした。この通り、まるで礼儀はなっていないが中々優秀でな。好きに使っていいぞ」

皇帝の言葉に戸惑ったのは、当の玲明自身だ。

意味が分からないと、整った顔を顰めている。

「何の話ですか?まったく読めないんですけど」
「喜べ、長期任務を与えてやる」

だが、この一言に顔色を変えた。

焦ったように首をぶんぶん振って拒絶の意思を表す。

「ちょっ、勘弁して下さいよ!部下がデータのセキュリティ突破されやがって、今新しいブロック作ってんですから」
「今日中に終わらせろ」
「ひでぇっ!!」

同感だ。

自分のためとは分かっていても、翔嘩の無茶は鬼だ。

何の話かは今一つ分からないが、玲明の必死の形相から、君主がどれほど非道なことを言ったのかは想像出来る。

哀れみと申し訳なさを半々にした感情の少年だったが、それでも言うべき言葉は決まっていた。

「悪い……。けど頼む」

翔嘩がスカウトしたと言うのならば、彼の実力は確かだ。

恐らく自分が抱える問題に、最も適した人材なのだろう。

雪のことを思えば余計な時間のロスも出来ない。

白銀に迫ってる危機は、こうしている間にも彼との距離を詰めているはず。

衣織には無理を承知で頼むことしか出来なかった。

頭を下げた少年を見て、翔嘩が揶揄するように答えを促す。

「ほら、どうする?お前の大好きな紅の戦神が、頭を下げているぞ」
「……卑怯だ」

琥珀色の目を暫時瞼で隠すと、男は諦めたように大きな溜め息。

顔を伏せたままの衣織の次に、自分の上司に視線を流せばニヤニヤと嫌な笑い。

コイツは絶対に分かってて自分を呼んだに違いない。

心底食えない皇帝を、軽く睨みつけてから。

「頭上げろよ。分かったから……その任務、受けてやるよ」
「え、いいのか?マジで?」

ぱっと顔を持ち上げた少年は、仕方なさそうに頬を緩ませた玲明が頷くのを視界に映し、満面の笑みを浮かべたのだった。




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