□
何処かで見たことがあるような、けれど決して記憶にない相手の姿に、少年は怪訝そうな顔を作った。
琥珀色の瞳など、自分は知らない。
「アンタ、誰?」
「玲明。ダブリアの元傭兵で情報屋だったところを私がスカウトした。この通り、まるで礼儀はなっていないが中々優秀でな。好きに使っていいぞ」
皇帝の言葉に戸惑ったのは、当の玲明自身だ。
意味が分からないと、整った顔を顰めている。
「何の話ですか?まったく読めないんですけど」
「喜べ、長期任務を与えてやる」
だが、この一言に顔色を変えた。
焦ったように首をぶんぶん振って拒絶の意思を表す。
「ちょっ、勘弁して下さいよ!部下がデータのセキュリティ突破されやがって、今新しいブロック作ってんですから」
「今日中に終わらせろ」
「ひでぇっ!!」
同感だ。
自分のためとは分かっていても、翔嘩の無茶は鬼だ。
何の話かは今一つ分からないが、玲明の必死の形相から、君主がどれほど非道なことを言ったのかは想像出来る。
哀れみと申し訳なさを半々にした感情の少年だったが、それでも言うべき言葉は決まっていた。
「悪い……。けど頼む」
翔嘩がスカウトしたと言うのならば、彼の実力は確かだ。
恐らく自分が抱える問題に、最も適した人材なのだろう。
雪のことを思えば余計な時間のロスも出来ない。
白銀に迫ってる危機は、こうしている間にも彼との距離を詰めているはず。
衣織には無理を承知で頼むことしか出来なかった。
頭を下げた少年を見て、翔嘩が揶揄するように答えを促す。
「ほら、どうする?お前の大好きな紅の戦神が、頭を下げているぞ」
「……卑怯だ」
琥珀色の目を暫時瞼で隠すと、男は諦めたように大きな溜め息。
顔を伏せたままの衣織の次に、自分の上司に視線を流せばニヤニヤと嫌な笑い。
コイツは絶対に分かってて自分を呼んだに違いない。
心底食えない皇帝を、軽く睨みつけてから。
「頭上げろよ。分かったから……その任務、受けてやるよ」
「え、いいのか?マジで?」
ぱっと顔を持ち上げた少年は、仕方なさそうに頬を緩ませた玲明が頷くのを視界に映し、満面の笑みを浮かべたのだった。
- 322 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]