助っ人。
「花のエレメント、飛空挺……か」
「何考えてんのか知らねぇけど、どう考えてもヤバイだろ。イルビナは確実に軍事力を手にしてるよ」
ソグディス山での出来事から、彼の国の中将より漏洩された情報まで、すべて話し終える頃には、日はすっかり落ちていた。
ただでさえ日照時間の短いこの季節、暖炉の炎が明かり代わりとなっていた。
「ふっ……蒼牙め、人生の最期に世界征服でも画策しているのか?耄碌したな」
「笑いごとじゃねぇから。雪がイルビナに捕まってる以上、花の術札は完成するぞ」
嘲る相手を窘めると、翔嘩はニヤリと意地悪く唇で弧を描く。
「その前に、お前が術師を助け出せば問題ないだろう」
人任せな台詞に溜め息が出た。
簡単に言ってくれるものだ。
雪を助け出すことに、当然ながら異存はない。
戦乱に発展することを危惧してではなく、雪の状態を思って、そして自分のために彼を救出するつもりだ。
だが、前回の潜入でイルビナの警戒網はより厳重になったはず。
こちらの動きに注意していないわけがない。
項垂れる衣織に、皇帝は「まぁ、待て」と返した。
「私だって力になってやりたい。が、相手は国だからな。そう簡単には行かない」
「分かってる。けど、一人じゃキツイんだよ。無理言って悪いけど、誰か腕のいいの斡旋してくれないかな」
ダブリアに戻ったのは、このためだった。
いくら衣織でも、強大な国家にたった一人で挑むなど無謀過ぎる。
個人だからこその利点もあるが、やはり自分だけでは目的の達成は不可能。
厳戒態勢の布かれている街から逃げるのと同時に、昔のツテを頼ったわけだ。
翔嘩は少し考える素振りを見せたあと、さっと肘掛け椅子から立ち上がった。
「いいのがいたぞ。少し待て」
サイドボードに置かれた電話を取り、ダイアルを回す。
「私だ。すぐにアレを寄越せ。……知ったことか、早くしろ」
後半は横暴な気がしないでもないが、頼んだのはこちらなので、衣織は気にしないことに決めた。
下手なことを言って機嫌を損ねられでもしたら堪らない。
ほどなくして、部屋に響いたノックの音。
「やっと来たか。入れ」
「失礼しまーす……って、なに?紅の戦神じゃん」
「はっ!?」
現れたのは、厳格なダブリア軍の軍服を着崩した色素の薄い髪の男。
少年の姿をソファに認めた途端指を指されて、衣織は目を白黒させた。
何だ、突然。
礼儀云々ではなく、自分の姿をチラリと見ただけで、過去の異名を口にした男に驚くばかりだ。
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