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「アンタ、ぜんぜん変わってないな。つーか前よりグレード上がった」
「お前は大分変わったな。何かいい出会いでもあったか」
「……千里眼?」
「馬鹿を言うな。誰であろうと気付くさ、それほど光る眼をしてればな」
くすりと含みを持って笑われて、衣織は内心で舌を巻く。
鋭い観察眼も健在のようだ。
確かに雪との出会いは自分にとって大きな変化を呼び寄せた。
暗く底のない罪悪の世界を包む絶対の白銀。
彼と出会わなければ、自分は永遠に囚われたままであったかもしれない。
背負った過去は消えることはないけれど、抱えて歩んで行くことが、今は出来る。
「幸せか?」
ここではない何処かを見つめる黒曜石に、翔嘩は穏やかに尋ねた。
問いに潜まされた深い想い。
だが、返って来た言葉は彼女の予想とは若干異なるものだった。
「幸せだよ……あ、違う。幸せだった」
「過去形?どう言うことだ。誰がお前の幸福を奪った?この世に生を受けたことを後悔させてやる」
穏やかならぬ気迫を醸し出す皇帝に、衣織は軽く笑ってみせるが、その瞳は対照的で。
「イルビナ軍」
翔嘩の濃い灰色の双眸が、軍人の怜悧なものに変わったのは、西の強国の名が紡がれた次の時だった。
「どういうことだ……詳しく聞かせろ」
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