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どうして今、心を支配するのは憤怒の念なのか。
雪深い異国の山から、自分の輝かしい軌跡は転落の一途を辿った。
黒髪の少年に破れ。
白銀の術師に情けをかけられ。
緋色の男に落伍の証を付けられた。
けれど、最も紫倉の血を赤く滾らせるのは。
自分に代わり、碧の監視役を命じられた格下の少将。
清凛家に遠く及ばぬ、下級貴族の翔庵。
実力などそう変わらぬはずなのに、どうして奴と自分はこれほどまでに違う。
許せない。
誰も彼も、赦すことは出来ない。
彼女に与えられたのは、後の無い任務と火傷の痕。
そして、胸を侵す憎悪と言う名の狂気だった。
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