なんて面倒な事態だ。

さっさと用件を済ませたいと言うのに。

大人しく捕まって、ぐずぐず足止めされるなんて真っ平御免。

時間は止まってなどくれないのだから、無駄な浪費は避けるべき。

雪を捉えたイルビナ軍は、きっとすぐにでも彼を使って花開発に取り掛かる。

異常をきたしたエレメントに晒されて、膝を折る男が目に浮かぶ。

急がば回れと何処かで聞いたが、ふざけるな。

回る余裕がある奴は、真実急いでなどいないのだ。

逸る心を捻じ伏せて来たが……。

「どうしたの?早く、手を出しなさ……え、きゃっ!」

女の銃を弾き飛ばし相手の肩に両手を掛けるや、少年は床を蹴った。

「っ!総員、撃てぇっ!!」

ややもあって号令がかかり、事務官の火器が打ち鳴らされる寸前で、衣織は女性士官共々受け付け内部に転がり込む。

弾丸はカウンターの上を飛び交い、壁に無数の穴を空ける。

「お前っ……ぅっ」
「アンタは少し寝てろ」

頚椎に落とされた手刀で意識を失った女を放り出し、自分は銃撃の止んだ一瞬の隙に受付の脇から走り出る。

身を屈めた体制で素早く床を駆け、軍刀を構えた若い武官に突進した。

「ひっ!」

あまりのスピードに反応が追いつかない相手の腿、続けて肩を足場に、細い身体が宙を飛んだ。

踏み潰された武官が倒れこむ音を耳に捉えつつ、呆然としながらもどうにか銃口を向けた相手の群れに、にやりと意地悪く笑った。

「撃てっっ!」

落下中の標的目がけて発射される弾丸の槍。

生かして捕らえる気は毛頭ないような仕打ちだったが、衣織は空中でリボルバーを取り出すと、数回引き金を引いた。

「え?」
「なっ、なんだっ!?」

敵のざわめきは当然だった。

衣織の放った鉛のパレットは、向かい来る高速の礫の軌道を僅かに逸らし、ことごとく使い手の狙った先を裏切る位置に被弾させたのだ。

「嘘だろっ!」

常人技ではない早撃ちと技術に、ネイビーブルーが浮き足立つ。

数日前に、自国と並ぶ勢力を持つ西国軍が覚えた脅威を、今彼らは一様に感じていた。




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