「ですが、花開発が再開され飛空挺の完成が目前である今、指揮を執る人間が減るのは大きな問題ですっ!碧様は花開発の副責任者でもありますし、第二支部からはここのところ反乱分子に不穏な動きがあると……」
「事務作業はほとんど君がやっていたでしょ。残党の蜂起だってまだ調査段階だ、急を要することじゃない。碧って言う本部の優秀な武官を、今すぐに支部に送る必要がどこにある」
「それは……」

視線を泳がし次の言葉を探す女に、火澄はゆっくりと言う。

「清凛大佐。君は部下に対し冷酷な反面、感情的になり過ぎる。事、碧中将が絡むとね」

途端、紫倉の頬がカッと紅潮した。

核心をこうも露骨に指摘されたのは、初めてのこと。

堪らない恥辱に拳が震える。

「ねぇ……本当に君が言いたいことは、何?」

果たして紫倉の心に隙があるのか、それとも赤い眼の男が鋭いのか。

どちらも正解だ。

碧の謹慎処分の撤回など、紫倉とて本当に出来るとは思っていない。

上官がとった行動は処罰されるべきものであるし、軍の規律を正すためには当然の処置である。

だが、一つのことを耳にすれば、とても我慢出来なかった。

「……どうして監視役が、彼なのですか?」

ようやく落とされた本題に、火澄は肩を竦めた。

本当に、感情的になり過ぎる。

自分の立場、現状は優秀な大佐ならば理解しているはずだが、それでも心が暴走してしまうのだろう。

今や彼女の忠誠は、軍にない。

「あの方のお側にお仕えしていた私が外されるのは分かります。ですがなぜ、あの男が監視の任に就いているのですか!?それならば私が……っ!」
「それ、本気で言ってる?」

金髪を掠めて吹き上がった火柱に、紫倉は息を呑んだ。

自身の身体と紙一重の至近距離で、足元から生まれた炎が四方を囲む。

ジリジリと肌を焦がそうとする熱を間近に感じ、額に汗が浮かぶ。

「黙っていれば目を瞑ってあげたのに」

灼熱の柱は次第に幅を広げ、標的を一枚の炎で包囲すると、女の視界を赤一色に染め上げた。

「ひっ、火澄さ…まっ」
「君は碧の暴走を僕に報告するか迷った。碧の言葉を何よりも優先してしまう君に、監視役なんて無理だろう?君と違って、彼になら安心して任せられる」

酸素を奪う劫火に紫倉は必死に口を開閉させ、見開いた瞳は眼窩から零れてしまいそうだ。

それでも尚、美しさを失わぬ姿はまるで地獄にもがく乙女のようですらある。

火澄の面から、笑みが消えた。

「清凛大佐、言ったはずだ。次はない―――と」




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