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だが、これは見過ごせない事態であった。
「紫倉からの報告も上がってこないし……みんなちょっと、好き勝手し過ぎだよね」
落とされた呟きは、冷ややかな香りを放ち主の影に呑み込まれた。
「火澄様っ」
若干焦ったような声色に、するりと思考から意識を浮上させると、手元のキーボードを操り碧の追跡を行っていた神楽が、柳眉を寄せていた。
「なに?」
レンズの向こうに見える青みがかった虹彩が、画面を示す。
「中将の機体から、探知機の反応が途絶えました」
「やられたね……」
背後の雪に聞こえないよう密やかになされた報告。
恐らくはセンサーに勘付いた男が、破壊したのだろう。
これでは黒髪の鍵はどうしようもない。
予定通りにことが運んだと思えば、どうやらそうでもなさそうで。
諦めたような溜め息を吐き出すも、華真族がこちらの手の内にあるならば、大した誤差でもあるまいと考える。
火澄は何事もなかったように柔和な笑顔で雪を振り返った。
「ようこそイルビナ軍へ。雪くん、君を歓迎するよ」
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