だが、これは見過ごせない事態であった。

「紫倉からの報告も上がってこないし……みんなちょっと、好き勝手し過ぎだよね」

落とされた呟きは、冷ややかな香りを放ち主の影に呑み込まれた。

「火澄様っ」

若干焦ったような声色に、するりと思考から意識を浮上させると、手元のキーボードを操り碧の追跡を行っていた神楽が、柳眉を寄せていた。

「なに?」

レンズの向こうに見える青みがかった虹彩が、画面を示す。

「中将の機体から、探知機の反応が途絶えました」
「やられたね……」

背後の雪に聞こえないよう密やかになされた報告。

恐らくはセンサーに勘付いた男が、破壊したのだろう。

これでは黒髪の鍵はどうしようもない。

予定通りにことが運んだと思えば、どうやらそうでもなさそうで。

諦めたような溜め息を吐き出すも、華真族がこちらの手の内にあるならば、大した誤差でもあるまいと考える。

火澄は何事もなかったように柔和な笑顔で雪を振り返った。

「ようこそイルビナ軍へ。雪くん、君を歓迎するよ」




- 282 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -