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SIDE:紫倉
「へ、碧様っ……!?」
忠実な副官は、多数の兵を率いて現れるも、青い瞳に映った光景に絶句。
装甲二輪車の後ろに侵入者を乗せた敬愛する男が、眼前を物凄いスピードで通過したのだから当然だ。
碧の執務室から最短ルートでフロア0へ向かっていたと言うに、何を思ったか急に一人駆け出してしまった彼を追った。
研究所のあるフロアへは、少々手間だが地下駐車場からも行くことが出来る。
それがどうして、こんなことになった。
動揺は背後に従えた群れにも伝わったようで、どうしたものかと逡巡していたが、職務を真っ当すべく肩に下げていた散弾銃を構えだす。
「待て、撃つなっ」
「し、しかし……」
「碧様に被弾したらどうするっ!」
戸惑う少佐を一蹴すると、紫倉は双眸を眇めた。
開き始めた地上へ通じるゲートに向かって、機体は速度を緩めず突き進む。
イルビナ軍が正式採用している自動二輪は、頑強な装甲を施されているにも関わらず、驚異的な速力を誇る。
見る見る小さくなるその姿に、噛み締められる赤い唇。
これは軍規違反だ。
侵入者を逃がした碧の思惑は、彼女には少しも分からない。
だが、これが火澄に知られればどうなるか。
処分が下されることは理解出来る。
「碧様……」
不穏な予感を抱きつつ、翻る紅と漆黒の髪を、紫倉はいつまでも見つめ続けた。
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