己と雪を繋ぐ直線間に現れた氷柱。

凍てつく空気に、背筋が氷る。

これは、何だ。

いや、違う。

浮かんだ疑問は、自身によって即座に否定された。

水のエレメント使役だと、知っている。

少年は、知っている。

けれど。

「一ひらに集え」

囁きが鼓膜を震わせ、黒曜石が見開かれた。

鋭い響きを持って次々と地面から生じた氷柱は、術師と少年を隔てる柵のように立ち並ぶ。

提示された冷気を纏ったバリケードは、これ以上の少年の接近を阻んだ。

「おい、雪?」

男との数メートルの距離に、冷ややかな空気が流れ込む。

困惑に彩られた表情で、衣織はその名を口にした。

当然だ。

自分に向かって精霊を使役されたことは、未だ嘗てなかったのだから。

想像すらしたこともなかったのだから。

「何、やってんだよ。冗談キツイんだけど……」

乾いた笑いを帯びた台詞は、張り詰めた場の雰囲気に呑み込まれ、瞬く間に消失した。

不自然な緊張感。

無意識に強張る頬が、事態の深刻さを訴えるようで。

現状を理解出来ない少年は、僅かにも動かぬ回路を起動させようと命令を下すが、浮かんでは消える感情が優秀な頭脳をフリーズさせた。

何が、どうなっている。

眼前の冷たい刃は、どういうことだ。

何故彼は、こんな真似をした。

こんな真似?

こんな真似とは、何だ。

雪が、自分を拒絶した――――こと。

「……花突には、到達した」

茫然とする衣織の耳に、不意に流れ込んだ男の声。

はっと目を上げ、食い入る様に雪を見つめる。

しかし、銀髪の影に隠れた彼の双眸は、氷のバリケード越しでは分からない。

それでもどうにか視線を合わせようと、少年は姿を見せぬ黄金を探した。

あの輝きを見たい。

彼の瞳さえ目にすることが叶えば、きっと全てが分かる。

類まれなる美しい眼が、真実を教えてくれる。

二人を分かつ精霊の理由を、教えてくれるはずなのだ。




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