例え喉が裂けようと。
ガンガンっ、ガン。
三度目の蹴りで、ようやく通風口を塞ぐ金網が外れてくれた。
べこりと無残にひん曲がった金属は、高い音を立てて床に落下する。
続いて少年の身軽な肢体が、飛び出した。
ようやく狭い空間から出られたとあって、衣織は幾分すっきりとした気持ちで辺りの様子を伺った。
当初予定していたものではなく、その次に発見した通風口から出てきたので、現在位置が掴めない。
ぐるりと動かす大きな瞳に映ったのは、だだっ広い長方形の部屋。
壁に沿って駐車している装甲車や自動二輪から、地下駐車場なのだと思い当たる。
閉じられてはいるも、向こうに見えるのは地上へのゲートだろう。
少年は脳内の地図と己の位置を照らし合わせて、口端を満足そうに緩めた。
「遠回りだけど、確かこっからでもフロア0に降りれたはず」
昇降機を乗り継ぐ必要がある上に、外界とを結ぶゲートの警備が厳しいことから、侵入には裏門のルートを使ったが、緊急事態だ。
何とかここから花突まで行くしかない。
シリンダーを確認して、残りの弾全てを装填する。
用意してきた銃弾はこれで最後。
「厳しい…けど、仕方ないよな」
順調に進んでいれば、術師はもう目的地に到達していてもおかしくない時間である。
既にことが終わって脱出しているなら、それでいい。
だが、もしそうでないならと思うと、衣織の足は自然と動くのであった。
必死になる自分を小さく笑いつつ、彼は視界にある施設への扉に駆け寄ろうとして、止めた。
シュッと小さな電子音。
横に滑って口を開けた扉から、現れた人影。
白いローブ。
肩までの銀髪。
金色の瞳を捉えようとした衣織は、満面の笑みを浮かべた。
「雪っ!」
そこに見えたは、誰よりも大切な人。
求めて止まぬ男がいた。
あぁ、よかった。
見たところ外傷はなさそうで、彼が無事であったのだと安堵。
加えて、再び顔を合わせることの出来た喜びが、身内を満たす。
男の元へと向かう衣織は、けれど決して交じることのない眼差しに首を傾げた、瞬間。
足元から突き出た絶対零度の刃に、反射神経のまま飛び退った。
「は……え?」
漆黒の前髪が数本、宙に舞う。
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