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乗せられてはいけない。
相手のペースに嵌れば嵌るほど、自分の足元に影は生まれる。
『隙』と言う名の黒き存在に己を喰われてしまえば、もう勝機はないのだから。
下降を続ける昇降機の稼動音だけが、二人を包む。
幾らもせずに、その動きは終わりを向かえ、金属の格子扉がスライドした。
「君の聞きたいことは分かるよ、雪くん」
先に降りた男が、術師を振り返る。
傲慢な台詞も、恐らく嘘ではない。
雪はゆっくりと目蓋を上げ。
正面のハニーブロンドを真っ向から見据えた。
促される前に箱を出れば、たった一つの扉が出迎えた。
白銀の覚悟を察した火澄はやんわりと笑った後、室内へと入って行く。
こちらが逃げるだなんて少しも考えてはいないであろう態度に、些か腹が立つ。
それでも続くしかない雪が足を踏み入れれば、金色に映し出されたのは、硝子張りの壁上部に居座る巨大なモニター。
イルビナの最新エレメント技術で覆われた空間を、象徴するかのようなそれが、何のデータを表示しているのかなど、解析出来ずとも容易に知れる。
火澄は硝子の前に立つと、入り口でモニターを凝視する男を手招き。
壁の向こうを指差した。
一体何が。
そう思う反面、相手の指の先に待つ存在に、不吉な想いが噴き上がった。
硬直した筋肉を無理やりを動かし、火澄の元へ。
ウィンドウの内部はこの場所よりも更に低い位置にあるのか、視線を下げた―――途端。
「君が求めていた花突だよ」
「愚かなっ……」
痛ましい色が、術師の面に浮かんだ。
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