この時分から呼び出されるのでは、どうせ朝まで解放されない。

機会を逃さずに済んだ。

「で?」

Tシャツを被りながら尋ねれば、ようやく軍人の顔に切り替わった大佐が、質問の意図を正確に汲み取った。

「本日午前零時頃、裏門より二名の侵入者です。雪=華真及び何でも屋―――」
「衣織」
「え?」

紫倉の言葉を奪うように紡がれた名前。

男はこれまた乱雑に放り投げていた紅のジャケットを引っ掴むと、再び部下に顔を向けた。

否。

その眼は金髪の麗人など、見てはいなかった。

ここではない、遥か彼方。

いや、ネイドで遭遇した記憶を視界に入れているのだろう。

ざわざわと妙に騒ぐと思えば、まさかこんな事態が待っていようとは。

彼の死神と再び合間見えることが出来るのならば、悪くない。

自然、浮かんで来る笑みは彼の戦闘本能そのもののように、酷く残虐で。

敬愛する男の纏う狂気を察知した大佐は、駆け抜ける悪寒から身を守るように、己の左腕を右の手で掴んだ。

部下の脅えを認識すらしない男は、真っ直ぐに紫倉の立つ扉へ歩を進める。

ぐっと増した威圧感。

ルージュを引いた艶かしい唇を噛み締めたのは、無意識だろうか。

嵐が過ぎ去るのを待つが如く目を落としていた女は、碧が己の横で一拍ほど立ち止まったのに気付けない。

中将の射るような緑が捉えたのは、纏められたプラチナブロンドに付着する、小さな木片であった。




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