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思いがけず真剣味を有した懇願に、雪は悔しそうな顔をした後。
「……悪い」
「ベツニ?さっさと行けって」
安心させるように軽い調子で答えてやれば、術師がやっと頬を緩めた。
頷きを残して踵を返した術師を見送る、刹那。
ガシャンッ!!と凶悪な音を立てて、防犯シャッターが二人の間に壁を作った。
「なっ……!?」
遮られた視界に衝撃が走る。
無機質な仕切りは衣織から完全に術師を切り離し、決して開きはしないと無言の威圧を放っていた。
「おい、雪っ!?雪っ!?」
拳で叩こうがビクともしないシャッターは、恐らくこちらの声すら向こう側には届けないのだろう。
雪からのアクションも聞えない。
図ったようなタイミングで下ろされたのだ。
誤作動ということはないだろう。
仕組まれていたとしか思えない。
「やられた……」
俯いて口にした言葉を掻き消すように、衣織の顔の横を銃弾が掠めた。
術師が居なくなったと分かるや、再び銃に変えたのだろうか。
振り返らなくとも、簡単に予想がつく。
あぁ、最悪だ。
全く最悪だ。
「おい、大人しく投降しろっ!!」
投げられる声が五月蝿い。
少し黙れ。
威嚇するように、もう一発が放たれる。
今度は足元の床に被弾した。
当てる気がないなら発砲するな。
五月蝿い。
五月蝿い。
五月蝿い。
「おい、聞いてい……」
「だぁぁぁぁっっっ!!うるせぇんだよっこのクソ共がっ!!アホみたいにバカスカ撃ちやがってっ!!!だから金持ち軍隊は嫌いなんだっ!!!」
咆哮を上げた少年に、後ろの兵士がぎょっと顔を強張らせた。
気でも触れたのだろうか。
衣織は大きく息を吐き出すと、それらを振り返った。
「俺、今すんげぇ機嫌わりぃから……気を付けろよ?」
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