「え?」

それは幻のような光景だった。

様々な攻撃を演出しようとしていた精霊の輝きは、敵のロッドの上でまるで枯れ行く花のように衰え、爆ぜるように霧散したのだ。

突然の事態に理解が及ばないイルビナの術師たちは、一瞬の間の後あたふたと焦り出す。

衣織とて何が何だかまるで分からない。

しかし、絶好の機会を逃す気は毛頭なく、短刀にかけていた手を銃に添え、引き金を続けて引いた。

乾いた音と共に銃口から飛び出した弾丸は、正確に敵の頭を吹き飛ばし、残った兵士は勢いのまま突っ込んだ少年の蹴りによって崩れ落ちた。

一体、どう言うことだ。

確かにあの術師たちは使役に成功していたはず。

ロッドに灯った輝きは、雪が術を発動するときに手に帯びた光とよく似ている。

それが、消えた。

術師の言霊によって、発動を停止した。

「雪、一体どういう……雪っ!?」

ホルダーに武器を戻しつつ、男の方へと顔を向けた少年は、ドサリと地面に倒れこんだ雪に駆け寄った。

「おい、どうしたっ?大丈夫かっ?」

抱き起こした雪の額には珠のような汗が浮かび、薄く開いた口が荒い呼吸を繰り返す。

「眩暈がしただけだ……平気だ、立てる」
「無理すんな、クソ術師っ」

信憑性のない言葉に歯噛みしつつ、肩を貸して立つの手伝ってやる。

どこか頼りなくはあるものの、確かに倒れたのは一時的のようだ。

けれどやはり平生とは異なる術師の様子に、衣織がここは退くべきかと考えたとき、鼓膜を振動させたのは、複数の足音。

「こんな時にっ……!」

退路を塞ぐ形で現れた紅の群れに舌打ちをする。

脳内に叩き込んだ地図によれば、この先はT字路になっており、右に曲がれば目指す昇降機だ。

「おい、雪」
「…なんだ」
「ここは俺が片付けるから、アンタは先に行け」
「馬鹿なことを―――」
「頼むからっ!」

この状態の雪を抱えて戦闘することは、難しい。

ならば、少しでも先に進ませた方がまだ安全である。

新たな敵が現れても、自分がすぐに追いつけば何とかなるだろう。

一先ず、雪にはこの場から離れてもらいたかった。




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