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SIDE:雪
中途半端なところで切った雪は、秀麗な面でクスリと笑むや己の担当を片付けようと、ローブを翻した。
相手は十数人。
雪にとってこの限られた空間では、集団の相手ほどしやすいものはない。
荘厳な美貌は流れるような音色で死を紡ぐ。
「一片に……」
掲げた右手。
だが、術師は苦く眉を寄せると、言葉を変えた。
「蕾に宿れっ」
淡い輝きを放つ手が振り下ろされた途端、綺麗な陣営を描いていたイルビナ兵の足元から、鋭い石柱が突き出した。
何本もの柱は巨大な刃となって敵を貫き殲滅する。
このスペースではろくに逃げることも出来ず、おまけに集団で固まっていたものだから、効果は覿面だった。
「ぎぁゃゃっ!!」
「お、おいっ…!!」
凄惨な状況に、運良く免れた者たちの間に畏怖による動揺が走る。
断末魔の悲鳴が木霊する中、雪はグラリと傾いた視界に壁に手を付いた。
「っ……」
想像以上に精神の消耗が激しい。
衣織に悟られないよう注意していたが、実のところ体調は全く回復していなかった。
それどころか、連日の花突探査で気分は最悪だ。
異常な精霊の動きだけでも苦しいのだから、術を使えば当然の結果である。
荒れた下級精霊の使役は困難で、中級以上でなければいけないのも厳しい。
けれどここで止めるわけにはいかなかった。
チラリと視線を投げれば、あちらで戦闘を繰り広げている少年の姿が目に入る。
さっさと自分の方を終わらせて、援護に行きたい。
しかし、雪の望みを阻むかのように、駆けつけて来るイルビナ兵が視界に入った。
「最悪だな……この国は」
だが、正面で何やらボソボソと呟き始めた新たな兵士たちに、雪は目を見開いた。
詠唱。
朗々たる響きは間違いなく、精霊を使役するための呪文だ。
預けていた身を壁から起こすと、雪は端整な面を苦しげに歪めた。
「蕾に宿れっ……!」
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