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「な…んで……っ」
ビービーと鳴り響く警報は、侵入者が入り込んだサイン。
「いたぞっ!!」
「こっちだ、撃てーっ」
幾つもの足音に指示を飛ばす怒鳴り声。
そして、銃撃音。
まさに自分たちのこと高らかに訴える耳障りな音に紛れて、少年は必死に足を動かしながら叫び声を上げた。
「なんでバレてんだよっっっ!!!」
裏門から内部に侵入した後、衣織たちは搬入用の昇降機を使って階下へと下った。
雪の調べでは、どうやら花突は最下層にあるらしい。
入手した見取り図に詳しいことは記されていなかったから何があるかは不明だが、そこまでのルートは分かっている。
途中、数名の軍人を発見したがどれも上手く切り抜けられた。
だが、フロア1と呼ばれる地下一階に到達した途端、状況は一転。
赤い電灯の明滅に満たされた広い通路は、たちまち騒然となった。
「どこかで見られたんだろう」
「冷静な回答なんか求めてねーよっ」
「…俺に当たるな」
雪の風に阻まれ、弾丸は衣織たちに到達する前に弾かれるや、さながら兆弾のように赤い集団に舞い戻る。
「ぎゃぁっ」
「うわっ」
背後を確認した少年は、寸前までの怒りを納め気の毒げな顔を作った。
「誰だよ、術師相手に発砲許可出したヤツ」
少し考えれば分かる事実に気付かない方も問題だが。
あれでは、自分たちに撃っているようなものだ。
それから視線を隣の男に戻し、真剣な表情で問いかけた。
「どうする?」
「簡単に逃がしてはくれないだろう。このまま、花突まで行くぞ」
「再チャレンジする時には、今回以上の警備だろうしな。そうするか」
妥当な判断だと頷いたのと、正面からイルビナ兵が現れたのはほぼ同時であった。
火器での攻撃は危険とようやく分かったのか、今度は皆一様にサーベルを構えている。
背後の銃撃部隊も同様で、これでは挟み撃ちだ。
少年は脳内で素早く地図を広げた。
「もう少し行ったら、次の昇降機だよな?」
「あぁ」
最下層のフロア0に降りるには、専用の昇降機に乗り換えなければいけない。
この階を突破すれば、目的地。
戦闘の緊張感に身を奮わせると、衣織はホルダーから銀色のリボルバーを取り出した。
「後ろよろしく」
「衣織」
「ん、なに?」
ジリジリと距離を詰める敵を前に、何だと言うのか。
怪訝な顔で見上げた少年は、不敵な笑顔でこちらを見下ろす術師に、顔を引きつらせた。
「な、なに?」
「怪我をしたら……」
「したら……?」
「さぁな」
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