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零すように落とした言葉の直後。
室内に響いたノック音に、神楽はハッと思考から抜け出すと、机上の眼鏡をかけた。
「どうぞ」
「失礼致しますっ」
こんな時間に一体何の用だと内心で首を捻りつつ、得意の微笑で迎えてやるも、入室した中佐は焦ったように口を開いた。
「も、申し上げます。零時頃、裏門より侵入者二名を確認。ご報告に参りました」
「侵入者?」
少将の胸中に嫌な予感がよぎる。
術師たちが花突を回っているということは知っていたが、まさか。
「……それで?」
内心の動揺を決して面に出すことはなく、けれど聊か硬い声で先を促す。
「はっ。侵入者の内一人は雪=華真と見受けられ、現在苑麗大将が指揮を……」
「どういうことですっ!」
何故、既に火澄に情報が回っている。
まず火澄の副官であるこちらに話が入ってくるはず、
動きが早すぎる。
突如声を荒げた麗人に、中佐はビクリと身を竦ませた。
「そ、それが、モニタールームで侵入者に気が付いたのが大将だと……し、少将?」
戸惑う部下を気にすることなく、神楽は部屋を後にした。
最悪の事態に知らず進む足が速くなる。
やはり侵入者は雪=華真だった。
明日まで待っていれば、自分が誘導して上手く花突まで到達させてやったものを。
舌打ちをしそうになった青年は、しかし自嘲気味な笑いを唇に刻んだ。
違う。
蒼牙の計画が真実のものであると認めたくない一心で、もはや確証があるというのに否定材料を探し続けた自分の責任だ。
後手に回らなければ、もっと早く行動出来たはず。
自分が仕える人間だけに冷静ではいられなかった事実は、笑うしかない。
「……私もまだまだですね」
苦い思いはそこで打ち切ると、神楽はようやく降りてきた昇降機に乗り込み、地下に通じるボタンを押した。
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