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「なっ…侵入し……っ!!!」
瞬発力のまま繰り出された肘鉄を腹に沈めれば、こちらもグタリと身を崩れさす。
あっけなく裏門の警備を片付けると、衣織は背後の闇を振り返った。
「おーい、終わったぞ」
黒い世界から姿を見せた術師は、こんな時間には眩しいくらいの白さを放っていた。
憮然とした表情でじっと責めるような視線を注ぐ男に、首を傾げる。
「なんだよ?」
「お前こそ、今のはなんだ」
「は?」
裏門に設置された監視カメラは全部で三つ。
雪が地のエレメントでそれらの視界を遮っている間に、衣織が兵を始末する手はずだったのだが、今の何が不服と言うのか。
裏門前に転がる二人の紅は、綺麗に気絶している。
「……抱きつく必要があったのか?」
「はぁ?」
金色をそらして言われた台詞に、少年の顔が盛大に歪んだ。
何を言っているんだか。
「そら、まぁ油断させるために……ってか、何?アンタどうした?」
自分の容姿がどの程度の威力を持っているか、大体だが把握している。
使えるものは何でも使うべきだと衣織は思っているのだが、術師の文句がよく分からない。
まさか抱きつく程度で、雪が嫉妬しているとは到底思わなかったのだ。
「…分からないならいい」
「なんだよ、気になるだろっ」
諦めの息を吐き出すと、雪は戸惑う少年を置いてさっさと門の内へと足を進めてしまい、衣織は貰えぬ返答に眉を寄せつつも、その背中を追った。
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