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「た、助けてっ!!」
退屈な裏門の警備に当たっていた衛兵二人は、突如夜を裂いた悲鳴にビクリと肩を震わせた。
今にも出るはずだった欠伸を引っ込め、肩に下げた散弾銃を構える。
主に搬入口として使われる裏門の周囲は、平生全く人気もなく、こんなところに警備を置く必要があるのかと思わせられるのだが、今夜は様子が違いそうだと、まだ若い衛兵は緊張した面持ちで薄暗い正面の通りに目を凝らした。
不意に、その暗闇が揺らぎ華奢な何かが勢いよく現れた。
「誰だっ!!」
厳しい声はその人影が地面に倒れこんだことによって、役目を失った。
侵入者ではないことに、散弾銃を肩に下げなおしたものの、これは一体。
若い衛兵は片割れを門に留まらせ、小走りで伏した人物に近寄る。
「おい、どうしたっ?大丈夫かっ?」
うつ伏せの相手を抱き起こせば、小刻みに震える細い指が士官服の袖をぎゅっと握った。
よっぽど恐い目にでもあったのだろうか。
「どうしましたか?」
極力優しい声音で様子を伺えば、恐る恐るといった風に相手の頭が持ち上がる。
整った面立ちに漆黒の瞳を涙で潤ませた少年に、衛兵は息を呑んだ。
卓越した面はどこか誘うような色香があり、性別という概念を打ち砕く。
「助けてっ……助けて下さいっ」
ぎゅっと首に腕が回り抱きつかれ、呆然としていた衛兵は身動きが取れなかったが、これは役得かと思い宥めるように背を叩く。
「もう大丈夫ですよ、心配いりません」
カタカタと怯える少年を落ち着けようとする衛兵は、自分の散弾銃に再びセーフティがかけられたことに気付かなかった。
背後にいるもう一方の衛兵も、侵入者ではないと分かるや欠伸をしていてこちらを気にする気配もない。
その隙をついて、少年―――衣織は抱きついている衛兵の鳩尾に、重い拳をめり込ませた。
「っ」
一挙に力を失う男の体を路肩に放り、ようやく異常を察知した衛兵に向かって地面を蹴った。
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