潜入開始。
繊細な動きを見せる華奢な指先が、銀色のフォルムを優しく撫ぜる。
回転式拳銃は小まめな手入れや、照準のブレやすさが素人には向かない。
弾代もまだまだ高値だし、何より持久戦や戦場では役に立たない代物。
単純に使い勝手を優先するならば、赤い短刀を使えばいいのだろうが、衣織はそうするつもりなどなかった。
先ほどまで磨いていた刃は、すでにホルダーに入れてサイドボードの上。
生涯背負い続けると決めた十字架は、まだ使い時ではないはずだ。
見誤ってはいけない。
真実、自分が本当に必要とするまで。
罪さえも生んだ力を、必要とするまで。
チラリと視線を投げてから、少年は手中に治めたリボルバーに再度目を落とした。
グリップの底に刻まれたそれに、微苦笑が漏れる。
懐かしい思い出を振り返るような、僅かな寂寥感を帯びた表情は、強気な光を宿す彼の黒曜石を、驚くほど大人びてみせた。
「…まだまだ働いてもらうからな」
シリンダーに弾丸を詰めると、衣織はふざけ半分で銃を構えた。
と、同時に銃口の先にある扉から白銀の男が現れた。
「……それは、俺に殺意を抱いているということか?」
「うわっ雪!?違う違うっ!!」
ジロリと睨まれて慌ててシルバーのボディをテーブルに置き首を振る。
とんだ誤解だ。
あははと取り繕うように笑う少年に肩を竦める雪の様子は、数日前よりも随分と調子が良さそうに見えた。
これなら大丈夫だろう。
事前に出来ることは全てやった。
ローブを羽織った雪が、こちらを見やる。
「準備はいいか?」
尋ねられた言葉に、衣織は一瞬の間の後、ニヤリと笑みを作ってみせた。
「当然」
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