「ほぉ〜そうですか、いいけどな別に。せっかく買って来たけどアンタにはあげない」
「待て」

ガシッと肩を掴んでくる術師を無視し、衣織は袋の中からまだほんのり熱いカットされたアップルパイを取り出した。

シナモンの香りを纏った黄金色のパイ生地は、見るからに美味そうだ。

「つーわけで、俺一人で頂きます」

ソファに座り直し両手を合わせる。

卓越した面をムッとさせこちらを凝視する男に、チラリと視線を投げて。

「言う?」

大きな眼に悪戯な光を浮かべて一言。

だが、少しやり過ぎたようだと気付いたのは、ゆったりとしたソファの上に押し倒されたときだった。

反転した世界に一瞬、頭がクラリと揺れた。

「どうしても言わせたいか?」
「や、やっぱいい……」
「遠慮するな」

あっという間に形勢逆転を果たした術師の双眸に、喉がヒクリと音を鳴らす。

零れ落ちる銀糸が頬にかかり、僅かのくすぐったさに身をよじれば、すっと首筋に唇が寄せられた。

全身から力が抜けていく感覚は、ひどく甘くて、この上なく幸せなもの。

弱っている術師に抵抗する気などない。

もちろん、そんな中でも行為を仕掛けてくるところには呆れるが。

「た…ちょ…は…?」

鎖骨に降りた舌先に息を乱しながら切れ切れに問いかける。

シャツの内側に潜り込んだ手を止めず、相手はふっと少年の肌の上に笑みを乗せた。

「問題ない」
「ん……ぁ……っ」

生理的な涙で、天井が滲んだ。




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