執務室の扉を開ければ、そこに居るはずの相手の姿は部屋のどこにも見えなかった。

まったくどこに行ったのだろうか。

自分にやり込められた相手は悔しそうに上品な美貌を歪ませフロアを去って行ったために、今この場に居るのは神楽一人。

八つ当たり気味に苛めてしまった自覚はあるが、気持ちの切り替えが出来る程度には気分が晴れていたので、後悔はしていない。

何より耐え難い言葉を投げつけて来たのは、向こうが先だ。

どこかの狂犬との出来事を隅に追いやると、彼は仕事に意識を集中させた。

まずは、上官の動向を把握しなければ。

すっかり心を落ち着かせた神楽は、重厚なデスクに近寄り置かれている一枚の紙を手に取った。

さっと目を走らせると、流麗な文字で綴られた一文に笑みが浮かぶ。

「仰せのままに」

颯爽と踵を返すや、真っ直ぐに扉へと向かう。

紙片に乗せられた言葉。

それは―――

『花を手折れ』




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