「その、俺は衣織。……名乗らなくてごめん」
「べーつーにー」

申し訳ないと素直な態度に返されたのは、素敵な棒読み。

自分の言葉をそっくり返されたことで、カチンッと来た。

「アンタ、すっげぇ性格悪くねぇっ!?」

黒い眼で軽く睨むも、雪は出されたティーカップに口をつけて優雅そのものである。

「いいと言った覚えはない。悪いかどうかは、お前の主観で決まるものだろう」
「なんかムカツク」
「ソーデスカ。それは失礼」

またしても、先ほどの言い方を真似される。

それでも衣織のように口汚くは聞こえないのが不愉快だった。

「……仲良しさんね」

二人のやりとりを見ていた蓮璃が、一瞬の間の後、クスクスと控えめな笑みを零した。

「はっ?誰と、誰がっ!?」

理解するまでに若干の時間を要しても仕方ないだろう。

今の会話のどこに『仲良し』要素があったのか。

事実からかけ離れた解釈に、頭痛がする。

「蓮璃……それは違うから。断じて違うから」
「あら、照れ無くったっていいじゃない」

言い返す気も失せて、衣織は項垂れた。




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