■
「その、俺は衣織。……名乗らなくてごめん」
「べーつーにー」
申し訳ないと素直な態度に返されたのは、素敵な棒読み。
自分の言葉をそっくり返されたことで、カチンッと来た。
「アンタ、すっげぇ性格悪くねぇっ!?」
黒い眼で軽く睨むも、雪は出されたティーカップに口をつけて優雅そのものである。
「いいと言った覚えはない。悪いかどうかは、お前の主観で決まるものだろう」
「なんかムカツク」
「ソーデスカ。それは失礼」
またしても、先ほどの言い方を真似される。
それでも衣織のように口汚くは聞こえないのが不愉快だった。
「……仲良しさんね」
二人のやりとりを見ていた蓮璃が、一瞬の間の後、クスクスと控えめな笑みを零した。
「はっ?誰と、誰がっ!?」
理解するまでに若干の時間を要しても仕方ないだろう。
今の会話のどこに『仲良し』要素があったのか。
事実からかけ離れた解釈に、頭痛がする。
「蓮璃……それは違うから。断じて違うから」
「あら、照れ無くったっていいじゃない」
言い返す気も失せて、衣織は項垂れた。
- 19 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]