レッセンブルグは、実に整然とした街だ。

A〜Iまでのブロックに区画分けされた街は、迷子になるのが難しいほどきっちりとしている。

少し目を向ければ薄暗い路地などもあるにはあるが、衣織にしてみれば綺麗過ぎるほど整備されていると思う。

カシュラーンやシンラとは異なり、どこまでも都市然としたレッセンブルグを大きな瞳に映しながら、衣織の足はまるで馴染んだ道を歩くように細い小道に入っていく。

情報を得ようとすれば、どこでも相場は決まっているのだ。

ほどなくして姿を現した小さな酒場に「ビンゴ」と口端を吊り上げると、少年はさっさと店に踏み入った。

出迎えるはむせ返るようなアルコールの臭いと、霧さながらの紫煙。

新たに入ってきた見ない顔にも、所狭しと並べられた席に着く男たちは、軽い一瞥をくれただけで、すぐに目を逸らした。

酒場という場所の雰囲気は、どこも似たものだなと妙に納得。

それから正面にあるカウンターに、衣織は腰を落ち着けた。

バーテンと言うよりも、店の親父と言った風貌の男に適当に注文してから、店の様子を観察する。

店内にはまだ日の高い時分だと言うに大勢の客がいて、右手にはカードに興じているテーブルもあった。

「こんな時間から入り浸ってるなんて、景気ワルっ」
「なんだ、見ない顔だと思ったらレッセンブルグは初めてか?」

グラスを差し出しながら声をかけてきた店主に顔を向ければ、人好きのする笑顔とぶつかる。

丸眼鏡をかけた店主はしっかりとした体格で、いかにも荒事に慣れている風だ。

こちらも営業用の微笑を貼り付けてから、少年は確かめるようにグラスに口をつけた。

思った通り、滑り込んで来た酒は度数が高く、喉が焼けた。

「まぁね」
「だろうよ。ここいらにいるのは、ほとんど非番の軍人だよ」
「マジ?」

これは予想外だ。

まさか敵がうじゃうじゃしている場所だったとは。

内心の動揺を押し隠し、衣織は何気なさを装う。

「随分軍属が多いんだな。外でも結構見たよ」
「ま、軍事国家を謳ってるしな。つっても、うちに出入りする奴なんぞゴロツキみたいなのばっかりだが」
「一概にイルビナ軍ってまとめられないわけだ」
「あぁ。一昔前は士官学校を出るか、貴族じゃなきゃ入れなかったけどな、今じゃ傭兵だって中将にまでのし上がれる時代だよ」

その言葉に衣織は何かが引っかかった。

『中将』?

一瞬頭に浮かんだ緑色の何かを、慌てて打ち消す。

気のせいだ、気のせい。

無理やり感は否めない。

急にどんよりと表情を曇らせた少年に、店主は怪訝そうな顔をしたが、ガシャンッと物凄い音を立てた方向に、はっと視線を飛ばした。

「テメェっ、ふざけんじゃねぇぞっ!!」
「イカサマなんて汚ねぇ真似しやがって……っ」




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