「まさか……」
「あぁ、ファーストブロックのときと似ている。この街の精霊は異常だ」

術師であるならばその技量に関わらず、必ず精霊との対話能力を有している。

エレメントの流れを読み、語り、力を得る。

華真族である雪は、その力が他の術師よりも遥かに強く、精霊の小さな変化をも感じ取ることが出来るらしい。

より深くエレメントを感じ取れば取るほど、強大な力を使うことが出来る。

花突へも廻る土地土地で精霊の導きによって到達していた雪は、レッデンブルグに入るや例に漏れずエレメントを探ろうと意識を向けた。

途端、繊細な神経に入り込んだ正常とは呼べぬエレメントの奔流。

精霊の力を扱う上でのリスクとも言おうか。

異常な状態の精霊に、雪の精神はダメージを負ったのだった。

「なら、花突の場所は分からないのか」
「…悪い」

消沈した男の声音に、衣織の頬が緩む。

己の不甲斐無さに落ち込む雪だなんて、なかなか見れるものではないだろう。

少年はそっと彼の頬に唇を落とすと、唖然とする雪に笑いながら腰を上げた。

「気にすんなって言ってるだろ?」
「しかし……」
「アンタはしっかり休んでろ」

有無を言わさぬようにビシッと言ってやる。

自分にとっては花突の場所よりも、雪の体調の方がよっぽど大問題なのだ。

何を謝ることがあろうか。

けれど、術師の目的もよく理解していた。

だから。

自分がやるべきことは、一つ。

「街の様子見てくるから、アンタは大人しく寝てること。ついでに飯も調達してくる」
「俺も……」
「ね・て・ろ」

雪が動けぬというのなら、衣織がこの身を動かせばいい。

アテにはならないが、何か少しでも情報を拾うことが出来るかもしれない。

彼のために動くまでだ。

渋々ながらも頷く雪に満足すると、少年はひらひらと手を振りながら、部屋の扉を潜って行った。




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