「蓮璃?」

彼女の張り詰めた表情に不穏なものを感じ、衣織は訝しげな視線を投げたのだが。

「やだぁっ、もの凄い美形じゃない!」
「は?」

思わず目が点になった。

「はじめまして、こんな汚い店でごめんなさいね。店主の蓮璃よ」
「とんでもない。貴方のようにお美しい方が営む店を、誰がそのように思いますか。私は雪=華真と申します」
「はぁっ!?」

素っ頓狂な声を上げる衣織の視線は、『廻る者』――雪=華真に注がれた。

「なんだ?」

白銀の男は煩そうにこちらを見やる。

「お前、そういう性格なのかっ!?」
「そういう性格、とは?」

蓮璃に向けられる彼の表情は、端整な面に相応しい上品な微笑。

背後に花でも背負ってしまいそうなそれに、瞠目してしまう。

「そうか、分かった。お前はそういうタイプの人間だったんだな」
「どういう意味だ」
「いや。別に?お気になさらずに、ミスター猫かぶり」

笑顔の大安売りで蓮璃に自己紹介をした彼は、自分に接していたときとはえらい違いである。

少々やさぐれた気分で、ワザとらしく言ってやった。

「俺には名乗りもしなかったくせに。蓮璃には自分から教えんのな」
「何を不機嫌になっている」
「べーつーにー」

不機嫌になどなっていない。

なる理由なんて見当たらない。

ただ、彼のこれ見よがしな二面性が気に食わないだけだ。

「こら、衣織。そんな言い方よしなさいよ。ごめんなさいね」

二歳年上の蓮璃は、まるで姉のように衣織をたしなめる。

申し訳なさそうな表情を作ると、雪にカウンターの椅子を勧めた。

「いいえ。気にしていません」
「ソーデスカ。そら、どうも」
「衣織っ」

ピシャリと言われて、さすがの衣織も口を閉ざした。

蓮璃には逆らえない。

代わりに、ジロリと横目を流してやった。

気づいた雪は、呆れた風に嘆息をしてから。

「お前も名乗らなかっただろう?」
「あ……」

忘れていた。

衣織だってまだきちんと名乗っていないのに、彼だけを一方的に責めてしまった。

自分の方がよっぽど礼儀知らずである。




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