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父親の叱責に頭を下げると、彼女は真っ直ぐに白銀の男を見詰めた。
瞳には決然とした意思が宿り、何かを決意したような潔さが見える。
「私、運命だと思っていました」
「は?」
唐突な発言に、言われた雪ではなく衣織がぎょっと目を丸くした。
蘇次も娘が何を言い出すのかとパニックだ。
「こ、香煉?何をっ!?」
「華真様が私の前に現れたのは、花神様からの贈り物なのだと信じていたのです」
「……」
見事な乙女発言に、もう何を言っていいのか分からない。
ただ至極真面目な彼女を笑うことも出来なかった。
握り締めた手が微かに震えていることに気が付いてしまった衣織は、見なければ良かったと後悔してしまう。
気付かなければ、何を言っているんだかと思えたのに。
全身全霊の告白をさせてやらないわけにはいかなくなった。
「当代でお会い出来ると思っていなかったから。華真様と私が出会うのは、もう運命だったのかと、そんな浅はかな思い込みをしていました」
「……」
懸命に言葉を紡ぐ女に、対する術師は何も返さない。
ただ、しっかりと耳を傾け視線をそらしはしなかった。
「お慕いしていたのです。恋をするのに時間は必要ないのだと、貴方様のお陰で実感致しました。華真様のことを、心の底から想っています」
「……分かった」
素っ気ない返事だった。
たった一言。
受け入れられても困るが、もっと言いようがあるだろうと思ってから、少年はその考えを打ち消した。
「道中、お気をつけて」
満たされたように微笑んだ香煉は、はっとするほど綺麗だったから。
嫌味な言葉をぶつけて来たときとはまるで異なる、すっきりとした晴れやかな姿が、眩しいほどだった。
to be continued...
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