背負いし罪。




――両親を……殺したんだ


雪の金色の眼が、目を見張ったまま硬直した。

それに小さな苦笑いを返すと、衣織は心の内側だけで彼に謝罪の言葉を呟いた。

雪が抱くかもしれない侮蔑と嫌悪は甘んじて受けるが、彼にそんな思いをさせてしまうことが申し訳ない。

けれどもう、告白を中断する気はなかった。

組み敷かれた少年の横顔を、冷たい月の輝きが照らし出す。

「十三歳になったばっかの頃だった。まだ皇帝が変わる前でさ」

前皇帝の無茶な改革に、側近であった有力貴族が反旗を翻したことが表面化し始めた当時、反乱軍の名を掲げた貴族の私軍とダブリア軍の小競り合いが、各地で頻発していた。

先に控えるダビデの内乱に比べれば小規模な戦ばかりだったが、しかし戦争とはその規模を問わず必ず当事者だけでなく周囲に大きな影響を与えるものだ。

暴虐武人な振る舞いで町々を嵐の様に踏み潰して行く両軍は、ただの一般庶民からすれば大差なく、田は荒らされ街は潰され人々は疲弊した。

僅かばかりに残ったものも、戦争の混乱に乗じて現れる盗賊の類に奪われてしまう。

それは首都ノワイトリアにほど近い衣織が住まう土地も、例外ではなかった。

「父さんと母さん、三人家族だったんだ。親がすっごい仲良くてさ、子供の俺が遠慮しちゃうくらい」

ふっと笑ってみせるのは、失われた過去を思い出しているからだろうか。

雪は何も言わずただ話しを聞いている。

制止の声がかけられなかったことに密かに安堵すると、少年は目を伏せた。

「あの日はさ、何かの記念日だったんだよ。よく覚えてねぇけど、俺は親父に頼まれて花摘みに林に行ってた」

優しくて温和な父親は、勝気な母親に代わって家事の一切を受け持っていた。

食卓に飾る花を息子にお願いしたときの表情は、すごく幸せそうだった気がする。

きっと特別な日に合わせて、いつも以上に腕を振るった料理を作るつもりだったのだ。

もうどんな味だったかは忘れてしまったけれど、彼が作るものすべてがどれも美味しかったと思う。

母と共に笑顔で賛辞を述べれば、あの柔和な顔に優しい笑みを浮かべていた。

また母もその日に合わせて街に出かけていた。

注文していた愛する者への贈り物を受け取りに行ったのだろう。

少し奮発しちゃった、と悪戯っぽく笑う顔が印象的で、数年経った今でも覚えている。

その日は特別幸せな日になるはずだったのだ。

疑いもせずに、信じていた。

「けどさ、何があるか分かんないよな」

笑って言おうと思ったけれど、失敗した。

強張った頬はきっと上手に笑みを刻めてはいないだろう。

「反乱軍が来ちゃったんだよ」

タイミングは最悪だった。




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