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何もかも取り払って、自分の本質を見せてしまうことは恐ろしい。
罪を抱えた中心は、きっとあまりに醜くて。
こんなにも美しい彼の前に、穢れきったこの身をどうして見せられるというのだ。
「俺は汚いっ、穢れてるからっ……」
「そんなものはないと言ったっ」
雪の語気が荒いのは、こちらに触発されたからだろうか。
その声に僅かの怒りが含まれていると察する。
地下で言ってくれた彼の真摯な台詞を、踏み躙ったのだから当然だ。
だからと言って、退くわけにはいかない。
「あんたは知らないから言えるっ!!」
「なら言ってみろっ」
「そんな簡単に言うなっ!!」
呼吸を乱し怒鳴ると、雪の動きがピタリと止まった。
目に見えた苛立ちの気配がすっと収束する。
怖気づいたのだろうか。
衣織の唇から何が出てくるのか、恐くなったのだろうか。
小さな失望を感じている自分に驚きつつ、衣織はそっと彼を様子を伺い――息を止めた。
「簡単なことか?」
皮膚がチリッと焦げ付く。
術師の内側から滲む静か過ぎる激情に、少年は絶句した。
輝く双眸は怜悧で、奥底に焔を滾らせこちらを見下ろす。
「他人のことを聞くというのは、それを共に背負うということだ。何を抱えていようとも、共に分かつということだ」
恐怖すら感じる真剣な瞳に、彼が『知る』ということの意味を理解しているのだと。
自分は彼を見くびっていたのだと、思い知らされた。
「簡単なことなのか?」
責められているわけではない。
彼は決意を示してくれたのだ。
再び重ねられた問いに、ゆっくりと目蓋を下ろす。
雪は逃げないと言ってくれた。
何があろうと、共に背負うと言ってくれたのだ。
彼が絶対に逃げ出さない保障などなかったし、丸々信じることは保身のために出来ないけれど、それでも言わないわけにはいかない。
真っ直ぐな真剣に応えよう。
シーツを掴む指先が白くなる。
筋が浮き上がるほどに手に力を入れ、堪え難い感情を押さえつけると、衣織は夜の瞳を露にした。
「俺」
それはあまりに小さな告白。
「両親を……殺したんだ」
けれど確かに、部屋一杯に木霊したのだった。
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