「な、んでもないっ。えっと、そうだ。なんで無理やり奪わないんだ?」

男に見惚れていた事実が恥ずかしくて、誤魔化すように口を開いたら、こちらにとっては都合がいいはずなのに、まるで糾弾するかのような台詞が零れでた。

僅かに頬を染める衣織に気付かないのか、彼は気にした様子もなく後を続ける。

「お前と戦ったら、きっとこちらも無傷でいられない。それに……」
「それに?」

不自然に途切れた言葉。

顔にぶつかる雪を払いながら、衣織は首を傾げた。

「……」

男は答えない。

変わりに、あの金色の瞳で衣織を見つめる。

「なんだよ?」

ひどく落ち着かない気分だった。

「お前、その色自前だよな?」
「は?」

突然の質問の意味が分からない。

間抜けな表情で問い返すと、彼は銀の髪を揺らして首を左右に振った。

「いい。なんでも無い」

「変なヤツ」と言おうとしたら。

「クシュンっ!」

変わりに小さなくしゃみが飛び出した。

豪雪の世界で、死体に囲まれながら話をしていることの不自然に、唐突に気付く。

「そういや、あんたに聞きたいことがあんだけど」

黒水晶が消え、金の支配から解放された衣織は思い出す。

「なんだ?」

えへへっと笑うと、少しだけ恥ずかしそうに口にした。

「ここ、どこ?」

自分が遭難していた事実を。



to be continued...




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