ごちゃごちゃ考えるなんて、今の心境ではどうやったって無理だ。

スマートにこなそうと思えば空回りするのだから。

騒がしい気持ちをそのままぶつけてしまえ。

「あんたを信用してないわけじゃねぇんだよっ!!むしろ、すげぇ信頼してるっ。あんたがいれば大抵のことは何とかなるんじゃないかって思ってるっ。術師だからじゃねぇ。あんただからっ!」

捲くし立てる少年にも、やはり術師は何も言わず、ただ上半身だけを起こした。

彼がどんな顔で自分を見つめているかなど、やはり恐くて確認出来ない。

もし出来たとしても、明かりのない部屋では正確に雪の表情を読み取れないだろう。

ただ、きちんと耳を傾けてくれている気がして。

そう思ったら、不思議と穏やかなものが落ち着きを与えてくれた。

衣織は己を宥めるために大きく息を吐く。

「けど、なんも言えなかった。だってあんた何にも教えてくれねぇから。どっから来たのかとか、何で旅をしてるのかとか。何一つ、教えてくれないから」

だからあの時、香煉に言い返すことが出来なかったのだと。

これ以上何かを望む自分は、雪を信用していないのではないかと、疑ってしまったから。

「俺、知りたかったんだ。あんたのこと、全部。教えて欲しかったんだ」
「……だから、信用していなかった?」
「違うっ。本当は、そんなんどうだって良かった……。教えてもらえなくたって、何も知らなくたって、俺があんたを信用していることには変わりなかったんだっ!!」

雪の声からは何の感情も読み取れなかったけれど、衣織は糾弾されているように感じて強く否定をする。

もう気付けた。

聞いて欲しいのは、ようやく自分が見つけた本当の気持ち。

心が震える。

拒絶されるかもしれない恐怖と、ようやく解き放たれる歓喜で。

相反する二つの感情が少年の想いを高ぶらせる。

喉の奥が乾く。

唇が戦慄く。

足は固まったように動かない。

それでも、この言葉だけは。

二つの黒曜石が、初めて雪を視界に納めた。


「あんたのことが、好きなんだ」


風に流された群雲から半円月が姿を見せたとき、月光が注いだ部屋に眩い銀髪が翻った。

乱暴とも言える力で腕が引かれ、バランスを崩した華奢な体躯は美貌の主の胸へと抱き込まれる。

やっとのことで想いを口に出来た充足感に浸る間もなく、少年は事態を呑み込むため頭を回そうとするのだが。

痛いほどの締め付けに、思考は中断した。




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