すれ違う想い。




目的を終えたことで、二人は早々に地下から脱出することにした。

城からは入り組んだダンジョンを越えなければ辿りつけぬ花突も、楼蘭の隠れ里からはすぐだったらしく、少し辺りを探索すれば瓦礫に埋まっていながらも、隙間から風の吹く道を見つけた。

「ここが楼蘭側の入り口か。確かにこれじゃ、入れないよな」

隙間から覗き込めば、薄暗いながらも階段のようになっているのが見て取れた。

しかし、入れないのならば、こちらから出るのも不可能。

どうするよ?と背後を見やると、術師が右手を翳す。

瞬間、崩れた壁や崩壊した天井であったものたちが、ザァッと軽い音を立てて砂塵に変貌を遂げた。

「は?何?」
「地のエレメントだ」

大地に返しただけだと事もなげに言う彼は、再び衣織の手を取ると、優雅な動きで階段へと促す。

もう手を繋ぐ行為は諦めている。

雪の思惑を測ろうなど、到底無理な話だ。

別に恥ずかしさはあろうと、嫌な感じはしないのだから、このままで何か支障はあるまい。

そうぼんやりと考えて、少年はハタと気付いた。

「あんたさ、こう言うことが出来るんなら、わざわざ俺が城に潜入しなくてもよかったんじゃねぇの?」

楼蘭族側から今のように道を開ければ、面倒なことにはならなかったのではないか。

ただでさえ婚約破棄でいらぬ苦労だった己の女装が、さらに無意味なものに思えてきて、少年は少しだけ恨めしそうに上目を向けた。

けれど、雪は顔を不機嫌なものにする。

「無理だ、楼蘭族は形式に五月蝿い。ただの瓦礫となろうが、神殿の一部を破壊させるわけにはいかないと言われた」

どうやら術師も同じ考えだったらしい。

蘇次に提案してみたところ、必死の拒絶を受けたという。

慌てた様子で懇願する族長が容易にイメージ出来て、衣織は苦笑を浮かべた。

「神殿って言っても、元はただの岩なのにな」
「あぁ」

深く頷く雪は、結局は族長の言葉を無視したのだが。

当人の目がないなら従う謂れはないようだ。

雪も大概自分勝手だと、衣織は大きく息を吐いた。

「出るぞ」

長い階段をようやく上りきると、涼しげな風が彼らを出迎えてくれた。

どれだけあの狭い下界にいたのだろうか。

同じ『暗い』でも、見上げれば小さな灯りを従える半円月が見える地上とは、えらい違いだ。

「出れたー!!マジで疲れた……。さっさと戻って、これ脱ぎてぇ」

血痕と土埃にまみれた花嫁衣裳は、数刻前の輝きが夢のような有様だ。




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