求める心。
耳朶を振るわせた叫びに、雪はただ長い足を必死に動かしていた。
狭い通路には数々のトラップが仕掛けられ、先ほどのように術で作った人形も行く手を阻もうとする。
けれど、術師が短い最期通牒を紡げば、容赦のない術に呑まれ、誰も彼を止めることは出来なかった。
「衣織……」
あの絶叫は、間違いなく少年のもの。
彼の身に何が起こったのかなど知らないが、けれど明確な予感は確かにある。
それは不吉で凶悪な塊。
雪の心を満たすのは、砂漠の国で見た光景。
閉鎖された空間で、凄惨な骸に囲まれながら。
蹲り叫んだ、あの光景。
初めて見た、彼の絶望。
これまで一本だった道が、眼前で三又に分かれていることに、雪は苛立たしげに舌を打った。
道を違えれば衣織に辿りつくことはない、運命の分岐点。
迷っている暇などないというのに。
迫り来る『何か』に怯え、涙すら浮かべる少年の元へ。
早く。
早く。
「っ!!」
小さく吐き出した罵倒と共に、雪は大蛇の口さながら、待ち構えている一つに飛び込んだ。
変わらず狭いこの道が、果たして正しいと、当然断言は出来ない。
けれど前に進むしかないのなら。
衣織の元へ我が身を運ばせたいのなら。
選ぶしかないのだ。
「衣織」
何度も何度も、焦りを打ち消すように唱える少年の名。
どうしてこんなにも、自分は必死なのだろう。
どうしてこんなにも、彼を求めているのだろう。
気に入っている。
仲間として気に入っているのだろうか。
しかし、形の違うピースのように、その感情は雪の心には当て嵌まらない。
分からない。
彼を探す自分が、何を思って懸命になっているのかなど。
少しも分からない。
それでも。
知れていることもある。
明らかなこともある。
自分は衣織が好きなのだ
それだけは、紛れもない真実だった。
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