被害者。




「これはまた……人は見かけによりませんね」

モニターが吐き出したある人物の経歴に、神楽は一人意外そうに柳眉を上げた。

それはほんの一瞬で姿を消すと、いつもの読めない微笑が現れる。

イルビナ軍が、現在最も重要視している二人の内片方は、中々に興味深い過去の持ち主だった。

術師の方が華真族と言うのならば、データを漁ったところで何一つ出てきはしまい。

最初から調査対象は、何でも屋の少年に向けられた。

あらゆる組織のホストコンピューターに潜り込み、必要な情報を探し出す。

最高の技術と、神経質なまでの繊細さが要求される芸当は、神楽の性格に向いている。

巨大組織のものよりも、個人で動く情報屋の方がコアな秘匿を知っていることが多く、その分セキュリティは強力だが、堅牢な壁を突破するのは爽快だった。

『彼』の過去を持っていたコンピューターも大したガードで、しかし少将は情報部の手も借りずに目的のものを己が眼に映し出した。

「『紅の戦神』――ね」

羅列する文字は、凄まじい戦闘能力を有しダブリアを舞台に戦跡を残したフリーランス―――傭兵に関してのものだった。

紅の刃で敵兵を狩る戦の神は、突如として現れ、また幻のように姿を消したらしい。

が、神楽が入り込んだデータは、謎に包まれた戦神の素性を明確に捉えている。

恐らくこれほど腕のいい情報屋もいないだろう。

詳細なテキストを眺めながら、ふとある可能性を思いつく。

今シンラに派遣されているのは、誰であっただろうか。

とことん相性の悪い上官の、ニヒルな笑みを脳裏に浮かべ顔を顰める。

傭兵出身の中将は、部下を想い頼りがいがあると評判だが、神楽にとって碧はただの唯我独尊男に過ぎない。

戦闘となれば血が騒ぐのか、自身の地位も省みず、率先して戦陣に赴き敵を討つ。

自分が座る椅子がどれほど重要なのかを、まるで自覚していない自由奔放な働きは本能に忠実で、理性などあるのだろうか。

そんな彼が、ただリーダーシップを発揮するだけの男でないと、神楽は完全に見抜いていた。

血を好み、争いを好み、強敵であればあるほど興味をそそられる、戦闘狂。

碧のグリーンの瞳には、時折正気の光が姿を潜める。

部下から崇拝される碧。

狂気を踊らせる碧。

紫倉は気が付いていないのだろうが、優れた洞察力を持つ少将は違う。

紅の戦神と遭遇した中将が、果たしてまともな説得をするのだろうか。

「運が悪いですね……衣織さん」

薄暗い執務室でモニターの尖った輝きは、繊細な美貌に艶やかな笑みを浮かべる彼を、静かに浮かび上がらせていた。




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